投資・運用

地銀の不適切な仕組み債販売 処分を打ち止めにしそうな金融庁 川辺和将

千葉市中央区にある「ちばぎん本店ビル」
千葉市中央区にある「ちばぎん本店ビル」

 金融庁は6月23日、金融派生商品(デリバティブ)を組み込んだリスクの高い金融商品である「仕組み債」を不適切に勧誘したとして、千葉銀行、武蔵野銀行、ちばぎん証券に業務改善命令を出した。

 ちばぎん証券で仕組み債を購入した千葉県在住の70代男性は「銀行への信頼を裏切られた」と憤る。千葉銀の口座を保有していた男性は2018年、同行の担当者から電話を受けて支店に出向くと、ちばぎん証券の営業担当者が現れ、投資を勧められたという。男性は「リスクが高い金融商品は避けたい」と伝えたが、結果的に勧誘されるままに仕組み債の中でもとりわけリスクが高いとされる「2指数連動EB(他社株転換可能)債」というタイプの商品を購入した。男性は約700万円の損失を被った。

 証券取引等監視委員会の調べでは、ちばぎん証券による仕組み債の不適切な勧誘は2400件超に上ったという。

 仕組み債は金融機関にとって、「効率的に手数料収入を稼げる好都合な商品」(別の証券会社の社員)で、地銀系証券などで近年販売が過熱していた。行政処分を受けた3社はそれぞれ、「再発防止に努める」と謝罪コメントを公表している。

 金融業界の関心は、監視委が別の金融機関への処分勧告に踏み切るかどうかに移っている。しかし、連続処分の可能性は低いという見方がある。

 金融庁は地銀100行を対象としたアンケート調査を通じ、22年11月時点で33行が仕組み債を取り扱っていることを把握。ただ、金融庁関係者は「監視委の慢性的な人員不足もあり、現実的に考えれば処分勧告は今回で打ち止めとなりかねない」と指摘する。

新NISA

 それに加え、24年1月から大幅に拡充されるNISA(少額投資非課税制度)が関係する。

 そもそも金融庁が仕組み債をやり玉に挙げる背景には、「政府が国策に掲げる『貯蓄から投資へ』を勢いづけるには、金融機関が販売手数料への依存から脱却し、業界の信頼を引き上げる必要がある」という考えがある。ただし処分を連発しすぎると、NISAを通じて国民の資産を投資に誘導する政策の妥当性自体が疑われかねない。

 金融庁の中島淳一長官(7月4日退任)は6月14日、日本証券業協会など官民でつくるNISA推進戦略協議会の初会合に出席し、「(税優遇制度の)ブランドに傷がつかないような取り組みを」とくぎを刺した。

 金融業界では外貨建て一時払い保険など「ポスト仕組み債」を探す動きもみられる。金融庁の“仕組み債潰し”が新たないたちごっこの発端となり、かえって投資促進策に水を差しかねない。中島長官の発言にはそんな警戒感がにじむ。

 仕組み債を購入して損失を被った別の男性は「投資のイメージを守るため、当局が『臭いものにふた』をすれば、自分のような被害者は増え続ける」と不安を口にした。問題がある営業をする金融機関に規制当局が毅然(きぜん)とした対応を取り続けるかどうかを注視すべきだ。

(川辺和将・金融ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2023年7月11日号掲載

FOCUS 金融庁 地銀の仕組み債販売にダメ出し 顧客との信頼を再構築できるか=川辺和将

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