法務・税務

マンションを長持ちさせる改修のコツ 岸崎孝弘

 大きな費用を掛ける大規模修繕は住民の合意を得るのは簡単ではないが、腰を据えて取り組めば長期的にはメリットが大きい。

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 現時点で最新の国土交通省「マンション総合調査」(2018年度)によれば、分譲マンションのストックは約685万戸あり、築40年を超える高経年マンションが115万戸(マンションストックの17%)、さらにそのうち約103万戸が1981(昭和56)年制定の新耐震基準以前の旧耐震基準ストックである。

 筆者はマンションなど鉄筋コンクリート・鉄骨鉄筋コンクリート造の建物であれば、200年でも維持管理可能であると各種セミナーで話しているが、「そんなに持つわけないだろう」との意見が大勢である。しかし、人が住み、適切な修繕を繰り返していけば、100年程度は維持できて当たり前であるという見識をまずは持ってほしい。

 ただし、そのためにはいくつかの条件がある(表)。これらがそろって初めて100年、200年の維持管理が可能になる。筆者はこれまで100棟以上のマンションの耐震診断に関わってきたが、そこから先へ進んで改修に至った建物はわずかに10棟程度である。困難に打ち勝ち、丁寧な説明を積み重ね、資金も長期修繕計画を見直し、借り入れや助成金も活用し、合意形成を取り、耐震改修を実現したマンションも多い。

 Cハイツ(写真)は74年築、11階建て、全70戸のマンションで、1階がピロティ(柱で構成された吹き抜け空間)であることなどに起因し、極めて低い耐力という耐震診断結果が出ていた。当初計画案は反対意見が多く計画が頓挫。筆者に相談があってコンサルとして加わり、誰もが合意できそうな案を構築する。70戸中50戸のバルコニー前にV字型の鉄骨ブレース(補強材)が取り付く案であったが、時間をかけて丁寧な説明を繰り返し、3年後に全住戸の合意を得て改修工事を実施した。

資産価値が大きく上昇

 高齢の居住者から「早く耐震をやってくれないと不安で夜も寝られない」といった悲痛な声や、「後に相続する子どもたちに価値のある資産を残したい」といった声も上がった。大規模修繕を7年延期して資金計画を立てての耐震改修工事だった。工事前は90平方メートルの住戸が2400万円で売買されていたものが、工事後は3200万円まで大きく上昇している。

 国交省では標準的な長期修繕計画を公開している。これまで12年周期で大規模修繕を実施することが標準とされてきたが、21年の改定で15年周期まで延ばし、2回分の大規模修繕を含み30年以上作成するものとした。大規模修繕工事は、マンション管理組合の資産として残らない足場の設置など、仮設工事の割合が2~3割を占めるため、修繕の周期を延ばすことは修繕積立金の節約につながるのである。

 修繕周期を伸ばすことが可能になった要因に、建材の高耐久化、高機能化も挙げられる。外壁塗装であればフッ素系の仕上げ塗材を使えば18年周期に対応する。タイル外壁の打ち継ぎ目地など、露出シーリング材もシリル化アクリレート系シーリングのような高耐久建材が開発されたことで、10年保証・18年周期を可能にした。

 忘れてはならないのが設備改修工事である。高経年マンションでは、給水管に鉄管や継ぎ手部分で防水精度の低い塩ビライニング鋼管が使用されている建物も多く、漏水事故が多発するので、給水用高密度ポリエチレン管など、高耐久管材への更新が必須である。

 排水管も共用縦管に亜鉛メッキ鋼管や鋳鉄管などが使用されており、経年で腐食して穴が開き、漏水事故などが発生することも多いため、更新を検討する。更新する場合は、耐火二層硬質ポリ塩化ビニル管のような高耐久管材であれば、その後の建物寿命をほぼ全うできるものと考える。

コンクリートが若返り

 ただ、排水管の更新は、住戸内からしかアクセスできないパイプシャフトも多く、全戸立ち入りの上、部屋内の壁を解体しない限り工事が行えない(写真)。部屋ごとにリフォームされ、内装の仕上げやグレードが異なる場合が多く、復旧にあたって部屋ごとに工事費が異なる。

 解体に伴う養生(ホコリや粉塵(ふんじん)の飛散防止)の設置や、粉塵や振動の発生、工事中の排水停止期間などもあるため、生活上の不都合も生じる。各戸の自己負担も発生することから、合…

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週刊エコノミスト

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