法務・税務

フリーランスの選択肢 インボイス発行事業者になるなら「2割特例」活用を 小島孝子

 フリーランスがインボイス発行事業者に登録するかどうかの判断は、取引先との関係性が焦点になる。本業に自信があれば免税事業者のままでいる選択もある。

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「業務委託元の大手の出版社から、『インボイス(適格請求書)のあるなしによって取引先を代えることはありません』との通知が来ている」──。筆者のクライアントであるフリーランスのライターが最近このように伝えてきた。

 10月1日に迫ったインボイス制度(適格請求書等保存方式)をめぐっては、フリーランスへの影響を伝えるメディア報道が目立つ。フリーランスの大半は消費税の納税義務が生じる課税売上高1000万円を下回る小規模事業者であり、1989年4月の消費税導入以降は納税が免除されてきた。

 全国でフリーランスとして働く人は約462万人(2020年2〜3月、内閣官房日本経済再生総合事務局調査)と試算され、日本の就業人口(6902万人、22年平均)の約6.7%に相当する。10月1日に迫ったインボイス制度によって大きく影響を受けるのがフリーランスの人たちだ。

 インボイス発行事業者に登録せず、従来通り免税事業者のままでいると、取引先に対してインボイスを発行することができない。それにより、取引先は「仕入れ税額控除」(受け取った消費税から差し引く支払った消費税)の額が減り、その分、納付税額が増えてしまう。

 一方、インボイス発行事業者に登録すれば、取引先に対してインボイスは発行できるものの、消費税の納税義務が生じる。これまで納めなくともよかった消費税分を新たに負担せざるを得なくなり、納税資金の確保や申告の手間もかかる。インボイス発行事業者に登録するかどうかは、今も多くのフリーランスの悩みの種だ。

 フリーランスがインボイスに登録しなければ、取引先から取引継続を忌避される恐れはある。そのこと自体は決して間違いではないのだが、冒頭で取り上げたライターのように、従来通り免税事業者のままでも仕事が継続できる人もいる。その結果、納税とその事務作業による新たな負担を当面は回避できる人も少なくない。

発行登録の判断基準

 筆者のクライアントでは、インボイスに対応しないと割り切っている人、当初から登録する意向の人と二極化している。ある程度の規模の収入がある人はインボイスへの参加意向が強く、年収で400万〜500万円くらいの場合だと、「できる限りこのままでいたい」という人が多い。

 図1は、インボイスの発行事業者登録を行うかどうかの判断基準をフローチャートで示したものだ。例えば、個人経営の学習塾や美容室の場合、取引先の大半はインボイスを保存する必要のない消費者と想定される。そのため、インボイス発行事業者に登録する必要性は低く、免税事業者のままでいても問題はなさそうだ。

 一方、取引先が事業者であれば、取引先は仕入れ税額控除のためインボイスを必要とする。そのため、インボイス発行事業者に登録しなかった場合、その取引の継続性を考慮する必要がある。そして、取引関係を続ける必要がある場合は、その取引先に対する優位性を持つか持たないかが鍵を握る。

 取引先に対する優位性は、フリーランス本人が、「余人を持って代えがたい」と取引先から一目置かれるような高いスキルを有する場合が該当するだろう。そうした個人の能力によって左右される要因でなくても、IT技術者など人手不足が著しい分野の業務で、代わりの発注先を見つけることが容易でない場合も、取引先に対して優位になりやすい。

値下げ要求は限定的?

 もちろん、取引先に対して優位性が低いケースも多いだろう。その場合、インボイスが発行できない免税事業者であることを理由に、取引を打ち切られたり、あるいは消費税分を値下げするよう求められ、要求を受け入れざるを得ない可能性は否定できない。

 ただ、公正取引委員会は昨年1月に出したガイドラインで、仕入れ側(買い手)の都合だけで、著しく低い価格を設定することや、応じない場合には取引停止することなど、禁止行為を六つ例示している。このガイドラインが出る以前は、「インボイスに対応しない取引先は取引価格を引き下げる」といったことを公言する事業者も目に付いた。しかし、このガイドラインが出て以降、禁止事項に抵触しかねない文書を取引先に配った業者が、それを撤回する動きも出て…

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週刊エコノミスト

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