経済・企業

大麻取締法改正で盛り上がる健康食品業界 木村祐作

 大麻取締法と麻薬及び向精神薬取締法の改正によって、幻覚作用などがある大麻成分の残留限度値が設定されることになった。それを超えない限り、規制されないことになる。しかし、残留量がわずかだとしても、オーバードーズ(過剰摂取)の懸念はぬぐえない。

消えないオーバードーズのリスク

 大麻取締法と麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)の改正案が2023年12月6日、参院本会議で可決・成立した。大麻草から抽出される幻覚作用のない「CBD」(カンナビジオール)という成分を食品分野で使いやすくしたことで、盛り上がりを見せているのが健康食品業界だ。その一方、ことさらに医薬品のような効能効果や大麻草の写真、わざわざ「合法」と強調する広告があふれるなどしており、薬物に興味を持つきっかけになりかねないといった危うさもはらんでいる。

 今回の改正は、大麻草の医療・産業分野での適正利用と乱用防止を目的として実施された。多くのメディアは大麻草から製造された医薬品が使用可能となることを大きく報じているが、法改正を歓迎しているのは医療界だけでなく健康食品業界も同様だ。なぜなら、今回の改正によって、大麻草に含まれるCBDという成分を用いた健康食品の規制が緩和されることにもなるからだ。

 CBDはどのような成分なのか。大麻草には特有の構造を持つ化合物群が含まれており、それらは「カンナビノイド」と総称される。大麻草は100種類以上のカンナビノイドを含有するが、有害な大麻成分であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)と、幻覚作用がないCBDに大きく分けることができる。THCは幻覚作用や認知機能に障害を与える作用があり、これまで大麻取締法などで取り締まってきた。

難しい由来の識別

 一方、CBDには幻覚作用がなく、これを配合したサプリメントやグミ、飲料などが販売されている。今回の改正以前の大麻取締法は、大麻草の「種子」と「成熟した茎」を規制対象外としてきた。これらは有害成分を含まないからだ。現在販売中のサプリメントなどに配合されるCBDは、これらの部位から抽出されたものだ。

 しかし、こうしたCBD含有商品に関しては、禁止成分のTHCが混入する事象が後を絶たず、商品の自主回収が相次いでいる。日本ではCBDは製造しておらず、海外から輸入しているが、海外での大麻草収穫、製造、輸入までのトレーサビリティー(追跡可能な状態、追跡記録)が必ずしも十分でない場合がある。ある業界関係者は「使用原料が種子と成熟した茎であるという証明は、書類を厚生労働省(厚生局麻薬取締部)へ提出すれば済む」と打ち明ける。

 THCには、大麻草由来のTHCと、化学合成したTHCがある。現在の法制度では、大麻草由来が大麻取締法の取り締まり対象、化学合成品が麻向法の規制対象となっている。ところが、厚労省によると「そのTHCが大麻草由来か化学合成かについては、科学的分析による識別が難しい」(監視指導・麻薬対策課)という。THCを含むサプリメントなどが見つかっても、どの法律で対処するのかが明確になっていないという深刻な事態が続いている。

「部位」から「成分」へ

 一方で、CBD商品を扱う事業者は、これまでにCBDの規制見直しを求める要望を行っていた。法改正以前のTHCの基準は「不検出」(THCがまったく検出されないこと)となっていたため、「厳しすぎる」「安心して…

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