法務・税務

大規模化する消費税の不正還付に調査の精度アップで追徴アップ 秋山浩一

免税店の制度が悪用されている……(関西国際空港の総合免税店で2023年12月撮影)
免税店の制度が悪用されている……(関西国際空港の総合免税店で2023年12月撮影)

 消費税に対する税務調査が強化されている。制度の隙を突いた不正還付が後を絶たないためだ。

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 消費税に対する税務調査が厳しさを増している。消費税はいまや国税でも最も税収の多い税目となったが、免税取引を使った不正な還付申告が後を絶たないためだ。外国人旅行者を動員して免税売り上げを仮装するなど、不正も組織的かつ大規模化している。国税庁はさまざまな取引データをデジタル化するなどして消費税の調査の精度を上げており、還付を申告する法人に対しては特に厳しい目を注いでいる。

 国税庁によると、2022事務年度(22年7月〜23年6月)の法人に対する消費税の税務調査件数は6万1000件と前事務年度に比べて52.2%も増加した。調査件数自体は新型コロナウイルス禍前の18事務年度(9万5000件)に届かないが、注目すべきは22事務年度の追徴税額が1357億円と、18事務年度の800億円に比べて7割近くも増えていることだ。個人事業主に対する消費税の調査も同様の傾向にある。

 特に、法人に対する不正1件当たりの追徴税額は22事務年度が371万8000円と、18事務年度(144万8000円)に比べて2.5倍にもなっており、調査の精度が上がっていることを示している。とりわけ、消費税の還付を申告した法人に対しては不正が指摘される金額が大きく、不正1件当たりの追徴税額は22事務年度で1477万6000円に上っている。

 消費税(国税分)は政府の23年度予算で税収23.4兆円と、同じ国税の所得税や法人税よりも多い。19年10月には消費税率が8%から10%に引き上げられたほか、昨年10月からはインボイス(適格請求書)制度も導入され、国民に負担感が強くなっている。そうした中で、国税庁は消費税制に対する信頼維持のために調査に力を入れており、特に不正還付に対しては「国庫金の詐取」とまで位置付けて対処している。

高級腕時計を何度も転売

 消費税は事業者が受け取った消費税から支払った消費税を差し引いて(仕入れ税額控除)納税する仕組みだが、一時的に大きな設備投資を実行するなど、受け取った消費税より支払った消費税が多くなった場合、差額の還付を受けられる。また、消費税はすべての取引に課税されるわけではなく、給与や賃金などは不課税、住居用家賃や保険料などは非課税とされる。さらに、輸出取引は免税となっている。

 ここ数年で目立つのは、この輸出免税取引を悪用した不正還付の横行だ。国税庁は特に、アルバイトで外国人集団を募集し、貴金属買い取り業者の免税店を舞台にした組織的な不正還付のスキームに目を光らせている。日本では外国人旅行者に対して物品を販売する際、税務署に「輸出物品販売場」として申請すると、免税店として消費税を免除できる仕組みになっており、典型的には次のような手口が指摘される。

 まず、日本国内に在留資格のある外国人Aが、貴金属買い取り業者の免税店に高級腕時計を価格110万円(うち消費税10万円)で買い取ってもらう。その後、外国人旅行者Bがこの免税店に対し、高級腕時計を105万円(消費税免税)で売ってほしいと頼み込む。免税店としては買い取り価格より5万円安く売ることになるが、輸出免税取引として消費税10万円の還付を申告すれば、5万円がもうかる計算となる。

 そして、AとBが共謀すれば…

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