法務・税務

相続土地国庫帰属制度 運用1年で見えてきた使い勝手の良さ悪さ 荒井達也

 相続登記義務化の一足先に始まり、価値がない“負動産”の処分に選択肢ができた。

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 相続した不要な不動産を国に引き取ってもらえる「相続土地国庫帰属制度」が、昨年4月27日に始まって間もなく1年となる。所有者不明土地問題の対策の一環として制定され、法務省によると今年2月29日現在で申請件数は1761件。審査が終わった案件165件のうち150件で国庫帰属が承認された。却下・不承認は計15件にとどまり、多くの識者の見解とは異なって90%以上の高い承認率で推移している。

 そもそも、相続した不動産の相続登記が行われないのは、その不動産に価値がない、いわば“負動産”だからである。負動産の相続を避けるにはそれまでは相続放棄するしかなかったが、相続放棄では預貯金や証券など他の財産も相続できなくなる。

 今年4月からの相続登記義務化によって相続登記が進んだとしても、相続登記をした負動産には管理や処分の問題が残り続ける。このような負動産を所有することへの負担感を踏まえ、相続登記の義務化の一足先に帰属制度が始まった。帰属制度を利用することで、金融資産などの価値のある財産を相続しつつ、負動産化している土地を国に引き取らせることができるようになった。

 ただし、帰属制度では国が土地を引き取る条件がいくつか定められており、「厳しすぎる」といった意見が見受けられる。しかし、法務省の統計を見る限り、却下・不承認とする事例は限られている。なお、承認された土地の種目別では宅地が44.0%と最も多く、農用地22.0%、森林3.3%と続く。

耕作放棄地の受け皿に

 ただ、帰属制度には、さまざまな課題も見えてきた。その一つが、帰属制度では境界が不明確な土地は引き取りの対象外とされていることである。

 申請に際してはこの点を証明するため、境界の写真を撮影して申請書に添付しなければならない。しかし、生家の近くの山林を相続し、相続人自身はすでに地元を離れて暮らしている場合、相続人が現地に行って境界の写真を撮影すること自体が容易ではなく、申請書類の作成段階で相当な負担を余儀なくされる。

 国庫帰属された土地は国有地として適正に管理する必要があるため、境界不明地を却下することはやむを得ない側面がある。ただ、国土調査が完了しており、客観的な境界が明確化されている地域では、こういった添付書類を不要とする措置などを検討するべきである。

 また、帰属制度の利用ニーズが旺盛な農地については、土地改良区に賦課金(水利費など)を支払っている場合、引き取りの対象外となっていることも見直しが必要だ。賦課金は年間数百〜数千円とごく少額にとどまることが多いが、賦課金の額にかかわらず一律で不承認とするのは条件が厳しすぎる。

 農地は農地法により譲渡などが著しく制限されている一方で、管理に相応の手間がかかることから、耕作放棄地が増加している。手放したい農地の受け皿として帰属制度の活用が期待されている点を踏まえ、一層の制度の見直しが不可欠である。

(荒井達也・荒井法律事務所弁護士)


週刊エコノミスト2024年4月16・23日合併号掲載

国庫帰属制度1年 相続した土地を引き取り 9割超と高い承認率=荒井達也

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