経済・企業2024年の経営者

ノウハウ蓄積の独自ソフトで顧客増――市川聡デジタル・インフォメーション・テクノロジー社長

Photo 武市公孝:東京都中央区の本社で
Photo 武市公孝:東京都中央区の本社で

デジタル・インフォメーション・テクノロジー社長 市川聡

いちかわ・さとし
 1972年神奈川県出身。函館ラ・サール高校卒業。2000年明治鍼灸大学(現明治国際医療大学)鍼灸学部卒業。鍼灸師を経て、04年東洋アイティーホールディングス(現当社)入社。12年取締役経営企画部長兼商品企画開発部長、18年現職。51歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2024年の経営者」はこちら

── 大学で鍼灸学を学んだそうですね。

市川 本当は医師になりたかったのですが、合格したのが鍼灸学部でした。卒業後、鍼灸師として勤めながら腕を上げようとする中、当社の創業者である父に「壁に当たっています」と相談しました。父は「抜け出る方法がある」。当時、400人ほどいた当社の従業員に施術すればいいというのです。そこで鍼灸師として入社しました。

サイバー攻撃に対処

── 主に三つある事業分野を教えてください。

市川 一つ目の「ビジネスソリューション」は顧客企業の社内システムを開発、メンテナンス、運用サポートをする事業です。

 二つ目の「エンベデッドソリューション」はスマートフォンやカーナビゲーションシステムといった市販製品に組み込むソフトウエアの開発支援や動作の検証をする事業です。直近では、自動運転やコネクテッドカー(インターネットに常時接続して遠隔操作もできる車)に関するソフトの開発支援や検証が中心になっています。7~8年前、組み込む製品をモバイル(移動体通信)から車載製品に大きくシフトしました。

 三つ目は「自社商品」です。1990年代からずっと独自開発したソフトやサービスを手掛けているのですが、採算面でほとんどが失敗に終わりました。それでも市場ニーズに合うものを出し続けたことでノウハウが蓄積し、業務効率化とセキュリティーに関するソフトが残りました。

── 独自開発のソフトとはどういったものですか。

市川 基幹システムを使いながら、表計算ソフトのマイクロソフト・エクセルを活用して周辺業務をこなしている会社が多いと思います。当社の業務効率化ソフト「xoBlos(ゾブロス)」はエクセルを使う業務を効率化し、基幹システムとのデータ連携を強化します。幅広い業種の600社弱が採用しています。

「WebARGUS(ウェブアルゴス)」は他社のセキュリティーソフトとは異なり、自社サーバーを防衛するのではなく、保存しておいたサーバーの中身に少しでも変化が生じたら即座に検知して元に戻すというものです。どんな攻撃に対しても100%対処でき、検知から復旧まで0.1秒未満と高速であり、実害はほぼゼロです。金融機関や独立行政法人をはじめとするセキュリティー意識の高い法人の導入事例が多くなっています。

── 2023年7~12月期決算では営業利益、最終利益ともに減益となりました。

市川 前年同期の業績は非常に良好でしたが、23年1~9月期にかけて“トラブル案件”の影響があったためです。システム開発の案件で顧客側から仕様の追加要望があったことなどから、当社は途中で抜けることにしました。その引き継ぎにコストがかかり、業績に響きました。

 インボイス制度(適格請求書等保存方式、昨年10月開始)や改正電子帳簿保存法による電子取引データの保存義務化(今年1月)などを受け、24年1~6月期は関連需要が高まると見ています。それにしっかり取り組むことで、24年6月期の連結売上高は前期比7.4%増、営業利益は22.6%増、最終利益は19.8%増と見込んでいます。

生成AIに対応

── 達成すれば14期連続の増収増益ですね。好業績の要因は何ですか。

市川 「変化対応力」と呼んでいますが、今の成功事例で満足せず、今後の変化を予想しながら合わせていくことが重要だと考えています。最近の成長ドライバーになった事業分野がエンベデッドソリューションです。モバイルから車載製品にシフトすることで、自動車のIT(情報技術)化や電動化のニーズをとらえることができました。あとは自社商品。今までは投資・開発段階でしたが、15年に上場を果たして認知度や信頼感を上げることで、採算分岐点を超えてきました。そういったことが増益の背景にあると思います。

── 24年6月期は中期経営計画の最終年度です。

市川 エンベデッドソリューションのようにおおむね順調だった事業分野もあれば、ビジネスソリューションでは顧客とのコミュニケーションの取り方に課題が残りました。ただ、トラブル案件を管理する仕組みを強化するなど、基本に立ち戻れたことは良かったと考えています。25年6月期からの次期中計については、エンベデッドソリューションの車載製品関連はまだ伸びると見ており、ビジネスソリューションでは生成AI(人工知能)など新しいニーズがあります。それらに対応していく3年間になると思います。

(構成=谷道健太・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 父からバトンを受け取った時です。権限を委譲しようとしましたが、「指示してくれないのか」と反発を受けました。社員たちとコミュニケーションを取りながら理解を深めました。

Q 「好きな本」は

A 池波正太郎著『剣客商売』『鬼平犯科帳』など時代小説です。信頼関係を築きながら成果につなげる描写が現在に通じると思います。

Q 休日の過ごし方

A 幼い子どもの遊び相手をしています。


事業内容:情報システムの開発・保守

本社所在地:東京都中央区

創業:1982年7月

資本金:4億円

従業員数:1330人(2023年6月30日、連結)

業績(23年6月期、連結)

 売上高:181億円

 営業利益:20億円


週刊エコノミスト2024年4月16・23日合併号掲載

編集長インタビュー 市川聡 デジタル・インフォメーション・テクノロジー社長

インタビュー

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