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EVのF1「フォーミュラE」日本初開催 東京湾岸コースで2万人観戦 河村靖史

東京ビッグサイト周辺の特設コースを疾走するEVのレーシングカー(Formula E PR事務局提供)
東京ビッグサイト周辺の特設コースを疾走するEVのレーシングカー(Formula E PR事務局提供)

 電気自動車(EV)のフォーミュラワン(F1)とも呼ばれる「ABB FIA フォーミュラE世界選手権 東京E-Prix」が3月30日、東京・江東区の東京ビッグサイト周辺の公道などを利用して開催された。フォーミュラEの開催は日本初で、国内で公道を使った本格的なレースも初めて。オープニングセレモニーには岸田文雄首相も訪れ「環境に優しいモーターレースをしっかりと盛り上げていきたい」とあいさつした。

 フォーミュラEは、世界各都市で開催されるEVレーシングカーのレースで、今シーズンは11都市16ラウンドで開催される。参戦するレーシングカーは電気モーターのみで駆動することからエンジン音がなく、走行中の二酸化炭素(CO₂)などの排出ガスもゼロ。このため、東京のような都市中心部でのレースが可能で、熱心なファンでなくても気軽に観戦に行ける。

 今回、東京で開催することになったのは、CO₂を排出しない環境先進都市「ゼロエミッション東京」を掲げる東京都が、EVの普及に取り組んできたことが大きい。小池百合子知事が2022年9月、EV普及の起爆剤になることを狙ってフォーミュラEの東京開催を目指すことを表明し、交渉はトントン拍子に進んで今回の開催が決定した。

 ただ、フォーミュラEは14年9月に1回目が開催されてから今シーズンが10年目で歴史も浅い。しかも、日本は新車販売に占めるEV販売比率が2%程度と低い。フォーミュラEを東京で開催しても来場者を集められない不安もあった。しかし、ふたを開ければ東京大会でのチケットは発売開始3分で完売し、追加販売のチケットも即完売するほどの人気ぶり。レース当日は2万人が来場し、「大成功」(主催者)となった。

ヤマハ発も25年から

 今シーズンのフォーミュラEにはポルシェやジャガー、マヒンドラなど、11チーム22台が参戦している。日系自動車メーカーで参戦しているのは日産自動車だけで、18/19年シーズンから参戦している。日産の参戦は研究開発に注力しているEVの心臓部であるパワートレイン関連技術を「走る実験場」で試し、レースの現場で鍛えた技術を市販用EV開発にフィードバックするためだ。

 日産の関係者は実際、「日産の量産EVの電力を効率的に使用するためのソフトウエアにはレースで培った技術が生かされている」と話す。こうしたメリットを確認できたこともあって、日産は30年までフォーミュラEへの参戦を継続する契約を主催者と結んだ。また、ヤマハ発動機は25年からフォーミュラEへの参戦を表明したが、これも電動バイクなどの電動パワートレインの技術開発力の強化を狙ってのことだ。

 東京大会では日産チームのオリバー・ローランド選手が予選でポールポジションを獲得し、決勝でも前半トップを堅持していたが終盤で後続の選手に抜かれ最後まで攻めたものの、2位と惜敗した。しかし、母国レースとなった日産を応援するファンは、最後まで白熱したバトルに満足気な様子だった。こうした熱い思いが日産のEV販売につながるかは見通せない。

(河村靖史・ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2024年4月16・23日合併号掲載

フォーミュラEが初開催 EV普及へ東京都が誘致 2万人を前に日産が2位=河村靖史

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