法務・税務

経済安保“捏造”事件の被害者が警視庁公安部の警官を刑事告発した事情 粟野仁雄

記者会見する相嶋静夫氏の長男(右)と高田剛弁護士 筆者撮影
記者会見する相嶋静夫氏の長男(右)と高田剛弁護士 筆者撮影

 3年前、検察が起訴を取り消し、昨年、捜査員が法廷で捜査を「捏造」と爆弾告白した大川原化工機事件に進展があった。

告発容疑は“捏造調書”を廃棄した公文書毀棄など

 横浜市の精密機械製造会社、大川原化工機と元幹部らは3月25日、警視庁公安部の捜査員だった安積伸介警部補(当時)と上司だった宮園勇人警部(同、同月末で辞職)を同庁捜査2課に刑事告発した。容疑は公用文書毀棄(きき)と虚偽有印公文書作成・同行使だ。

 大川原化工機側が主張する違法行為が起きたのは、新型コロナウイルスの感染が世界に広がり始めた2020年3月11日。公安部は「生物兵器の製造に転用できる噴霧乾燥機を中国に不正輸出した」として、製造した同社の大川原正明社長(74)、島田順司取締役(70、同月辞任)、相嶋静夫顧問(21年死去、享年72)の幹部3人を外国為替及び外国貿易法(外為法)違反容疑で逮捕した。

 同社側の主張によれば、安積警部補は逮捕直後の島田氏から認否を聴く「弁解録取」の際、実際には弁解を聞かずにあらかじめ作成していた供述調書に署名・捺印(なついん)を求めた。島田氏は逮捕容疑を認めず、調書の修正を要求した。すると安積警部補は修正したかのように装って島田氏をだまし、署名・捺印するよう求めた。島田氏は一旦、署名・捺印したが、修正されていないことにすぐに気づいて抗議し、修正後の調書に改めて署名・捺印している。

 安積警部補は弁解録取が終わった後、修正前の調書を裁断機で廃棄した。同社側はこの点が公用文書毀棄に当たるとしている。また、安積警部補が調書を「過失により裁断機で裁断してしまった」という内容の報告書を上司に提出した点が虚偽有印公文書作成・同行使に該当するとした。

捜査員が冤罪を認めた

 公安部が島田氏ら3人を逮捕した20日後の20年3月31日、東京地検は3人を起訴したが、初公判直前の21年7月に突然取り消した。東京地検は公訴取消申立書に「大川原化工機が輸出した噴霧乾燥機が生物兵器の製造に転用できることの立証が困難と判断した」という趣旨の記述をしている。

 一方、大川原化工機、大川原氏、島田氏、相嶋氏の遺族は同年9月、国(検察庁)と東京都(警視庁)に総額約5億6500万円の国家賠償を求めて提訴した。

 それから2年近くたった昨年6月、東京地裁──。同社側の高田剛弁護士が「公安部が事件をでっち上げたと言われても否めないのでは?」と聞くと、証人として出廷した公安部の濵崎賢太警部補は「まあ、捏造(ねつぞう)ですね」。裁判官の質問には「(大川原化工機による)輸出自体には問題はなく、捜査員の個人的な欲でそうなった」と証言。捜査当事者が無実の人に罪を問う冤罪(えんざい)を赤裸々に認めたのだ。

 東京地裁は昨年12月、東京地検による勾留請求と起訴、公安部による逮捕と取り調べを違法と認定し、国と東京都に約1億6200万円の支払いを命じる判決を出した。判決は公安部の「噴霧乾燥機内に熱風を送って残留物を殺菌できることから、同機を生物兵器の製造に転用できる」とする判断を否定し、それを基に同社の幹部らを逮捕したのは「国賠法上、違法」…

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