週刊エコノミスト Online 2020年の経営者

高機能なタイヤ、欧米で販売拡大 山本悟 住友ゴム工業社長

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝、東京都江東区の東京本社で
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝、東京都江東区の東京本社で

高機能なタイヤ、欧米で販売拡大

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 新型コロナの影響は。

山本 世界各地でタイヤへの需要が縮小しました。1月から9月までで1316億円の減収要因になったと試算しています。ただ新車の生産が戻りつつあり、7月以降は想定以上に需要が回復しています。特に中国、北米の市販用タイヤ事業が先行しています。(2020年の経営者)

── 「ダンロップ」ブランドでタイヤを販売しています。

山本 1888年にアイルランドに住むJ・B・ダンロップが世界初の空気入りタイヤを実用化したのが始まりで、100年以上の伝統があるブランドです。1909年に英ダンロップ社が日本の神戸に造った工場が当社の起源です。安全性はもちろん、石油由来のゴムを使わず、天然資源だけのタイヤを世界で初めて発売するなど、最先端の技術で環境性や低燃費性能も追求しています。

── タイヤの特徴は。

山本 主力ブランド「エナセーブ」シリーズのネクストⅢというタイヤは、低燃費性やぬれた路面での安全性能などを等級分けするタイヤの表示制度で、最高の「AAA-a」を獲得しました。また、新品時の性能を長く保つ「性能持続技術」にも力を入れています。

 99年に米グッドイヤーと資本・業務提携を結び、国内と欧米で市場をすみ分けながら協業してきた。しかし、2015年に提携を解消し、欧米で「ダンロップ」が使えなくなり、「ファルケン」ブランドを強化することに。提携解消で生産や研究が自由にできるという利点も生じ、19年新車用タイヤ販売本数は、提携解消前の12年比で37%増えている。

── 欧米では「ファルケン」ブランドを展開しています。

山本 83年に誕生しました。走りの楽しさを追求したブランドです。有名な独ニュルブルクリンク24時間耐久レースなどにも参戦しています。欧州の自動車雑誌で高い評価を獲得し、新車メーカーへも納入されています。

── 海外での事業戦略は。

山本 海外売上比率は19年に64%になり、これを年々高めていきます。欧州や米国など世界各地に研究開発や製造、販売の拠点を持っているので、それぞれの市場に合った商品をタイムリーに開発できる強みがあります。特にSUV(スポーツタイプ多目的車)用や、大口径などの高機能タイヤの開発に注力していきます。高機能タイヤは25年に、19年対比で販売本数を1・5倍にする計画です。

── 自動車業界はシェアリング(共有)や電動化など変革の時代を迎えています。

山本 未来のクルマ社会に対応するため、「スマートタイヤコンセプト」という開発方針を掲げています。その一つ「センシングコア」は、タイヤそのものをセンサーに変える新しい技術です。路面が乾いているか、濡れているか、あるいは傷んでいるかなど、タイヤが路面の状況を感知して、ドライバーや車両に伝え、さらに通信によって周囲を走っている車両や道路管理者にも伝えることができるようになります。

 また状況に応じてゴムの性質が変わる「アクティブトレッド」という分野の研究も進めています。例えば、タイヤが雨を感じたら雨に強いゴムに変化して、最適な性能を発揮する先進技術です。

ゴルフクラブ国内首位

── 車両の管理にも新しい技術を投入します。

山本 タイヤの空気圧をリモート監視するサービスの実証実験を、レンタカー事業を手掛ける新出光(福岡市)などとともに始めました。これまでは1台1台点検する必要がありましたが、タイヤの内側に設置した小型装置から得たデータを通信で管理者に送り、一つの画面で空気圧の状況を確認できる仕組みです。

── ゴルフ用品など扱うスポーツメーカーでもあります。

山本 20年連続で国内のゴルフクラブ売り上げトップの「ゼクシオ」、トッププロも使う「スリクソン」、ウエッジの「クリーブランドゴルフ」と三つのブランドで展開しています。市場規模の大きい北米に注力していきます。日米にある開発拠点で、独自技術の「ダントツ商品」を投入します。

── ゴム技術を生かした産業品も手掛けています。

山本 揺れを吸収する独自の高減衰ゴムを活用した戸建て住宅用の制震ダンパー「ミライエ」が、販売を伸ばしています。16年の熊本地震の被災地では、ミライエを使っていた家屋が132棟ありましたが、強い揺れでも倒壊することはありませんでした。

── 20年の売上高予想は7750億円ですが、25年までに1兆円の経営目標を掲げています。

山本 現時点では変更はしません。コロナであぶり出された各部門の課題が鮮明になりました。ピンチをチャンスに変えていきます。

(構成=神崎修一・編集部)

横顔

Q これまでの仕事でピンチだったことは

A 販売会社社長に就任して3日目で大きな取引を失いかけました。相手と12時間とことん話し、最終的に取引は続くことになりました。相手を知る「間合い」の大切さを実感しました。

Q 「好きな本」は

A 学生時代は剣道部だったので、新渡戸稲造の『武士道』です。

Q 休日の過ごし方

A 夫婦でゴルフの練習場に行き、スーパー銭湯でリラックスしています。


 ■人物略歴

山本悟(やまもと・さとる)

 1958年生まれ。海城高校、上智大学経済学部卒業。82年住友ゴム工業入社。ダンロップタイヤ営業本部長、アジア・大洋州本部長などを経て2019年3月から現職。埼玉県出身、62歳。


事業内容:タイヤ、スポーツ用品、産業用資材の製造・販売など

本社所在地:神戸市

設立:1917年3月

資本金:427億円

従業員数:3万9233人(19年12月末、連結)

業績(19年12月期〈IFRS〉、連結)

 売上収益:8933億円

 営業利益:330億円

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