経済・企業 株高・日本経済の大解剖

ソフトバンクGは3兆円 ソニーは1兆円稼ぐ=神崎修一/桑子かつ代/斎藤信世

「まだ道半ば」というソフトバンクグループの孫正義会長兼社長
「まだ道半ば」というソフトバンクグループの孫正義会長兼社長

 <株高・日本経済の大解剖>

「たかだか3兆円の利益で有頂天になるつもりはない。まだ道半ばだ」。ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は2月8日の記者会見でこう述べ、今後の事業展開に自信をのぞかせた。ソフトバンクグループの2020年4〜12月期連結決算は、最終(当期)利益が前年同期の約6・4倍に上る3兆551億円となった。3兆円の突破は日本企業では初めて。世界的な株高を背景に、投資ファンドの利益が拡大したことが主な要因だ。(株高・日本経済の大解剖)

 新型コロナウイルスの感染拡大で首都圏や関西圏で緊急事態宣言が再発令される中、企業決算は「サプライズ」が相次いでいる。

 ソニーの20年4〜12月期連結決算は最終利益が前年同期比87・0%増の1兆647億円で、2年ぶりに過去最高を更新した。1兆円の大台突破は初めてとなる。新型コロナの感染拡大に伴う「巣ごもり需要」で、ゲーム事業が全体をけん引した。

 昨年11月に投入した家庭用ゲーム機「プレイステーション5」も、12月末までに450万台を販売するなど出足が好調だ。グループ企業が配給に関わるアニメ映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の大ヒットも貢献した。テレビやデジタルカメラ関連も堅調だ。ソニーは21年3月期の業績予想を上方修正し、最終利益は従来の8000億円から過去最高となる1兆850億円とした。

上方修正ラッシュ

 上方修正はソニーだけではない。21年3月期の業績予想を上方修正する企業が製造業を中心に相次いでいる。

 SMBC日興証券が2月5日までに20年4〜12月期決算を発表した894社(全体の60・9%)を集計したところ、最終利益の合計額は前年同期比22・1%減となった(図1)。20年9月中間決算の39・6%減から減益幅を縮小し、業績回復の傾向が鮮明になった。さらに全体の約3割にあたる285社が最終利益を上方修正し、下方修正の42社を大幅に上回った。

 業種別にみると、最も多いのは電気機器(半導体、FA関連など)の43社、化学の32社、機械(工作機械・農機など)と卸売業(商社など)の26社、輸送用機器(自動車など)と情報・通信業の18社が続く(図2)。製造業に限ると全体の4割にあたる企業が上方修正した。

 好調な企業には、コロナ禍から早期に脱却し、変化する需要をうまく捉えたことに共通点がある。

 日本電産は家電やパソコン、ゲーム機向けの精密小型モーターの需要が好調だった。ファナックは、FA(ファクトリーオートメーション=製造工程の自動化)やロボットが、EV(電気自動車)関連などへさらなる需要が見込まれる。東京エレクトロンは、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、5G(第5世代移動通信システム)など情報通信技術の用途拡大で半導体需要が伸びており、それに伴って半導体製造装置市場も拡大基調にある。

 非製造業でも、家電量販店のヤマダホールディングスは、家電販売が好調で「巣ごもり」需要を取り込んだ格好だ。

 SMBC日興証券の安田光株式ストラテジストは「中国の景気回復を受け、製造業を中心に業績の回復が顕著だ。自動車や電機など製造業を取り巻く経営環境が好転している。ただ、非製造業は回復が遅れており、企業業績は2極化している」と分析する。

30年半ぶりの高値

 2月9日の東京市場で、日経平均株価は前日比117円高の2万9505円となり、バブル崩壊後の高値を更新した。実に30年半ぶりの高値水準だ(図3)。20年のコロナ・ショックで一時は1万6000円台まで急落したものの、世界的金融緩和で急反発した。

 大和証券の石黒英之シニアストラテジストは「足元の企業業績を見ると、完全に底入れして、来期は増益に転じる可能性が高まっている。ソニーなどコロナ禍でもしっかりと収益化している企業も多く、株価が強すぎるという印象はない」と分析する。

 また、30年半ぶりの高値を付けた日本株に対する海外勢の関心は高い。金融商品の米調査会社EPFRのデータを基に大和証券がまとめた資料によると、米国籍と欧州籍のファンドの日本株への資金流入出の動向は、20年秋以降、流入超過が鮮明となっている(図4)。世界的な景気回復局面に敏感に反応する日本株に、世界の投資家が資金を振り向けているのだ。

 大和証券の石黒氏は、今後の株価については「日経平均は3月末に3万円を超え、今年の年末には3万3000円まで達している可能性はある」と予想する。

株価と実体の乖離

 だが空前の株高も、庶民の実感は乏しい。統計がそれを裏付ける。

 内閣府が実施した1月の「景気ウオッチャー調査」によると、3カ月前と比較した街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整値)は前月比3・1ポイント下落の31・2だった。

 この調査は、タクシー運転手や百貨店の売り場担当者、コンビニ店長など「景気に敏感」な人たちに対して、景気の現状や先行きの認識を尋ねる。庶民の実感が反映しやすい調査だ。悪化は3カ月連続。昨年5月(15・5)以来の低水準で、緊急事態宣言が1月に再発令され、「二番底」懸念も残る。

 現状判断指数を構成する項目のうち、小売りや飲食などを含む「家計動向」が4・1ポイント下落の28・0と最も落ち込んだ。「来客数は前年の約40%となっている」(近畿の百貨店)との声もあり、実体経済の落ち込みは深刻だ。

 現実の消費も弱い。総務省が2月5日発表した20年の家計調査によると、1世帯当たりの消費支出は月平均27万7926円となり、物価変動を除く実質で前年比5・3%減だった。減少幅は比較可能な01年以降で最大となった。「被服及び履物」が19・8%減、旅行などを含む「教養娯楽」が18・1%減、「交通・通信」が8・6%減と、コロナによる外出自粛の影響が直撃した格好だ。

「年半ば以降に、ワクチン普及に五輪開催によるセンチメント改善が加わることで、国内需要が大きく回復していくと見ている」(三井住友銀行市場営業統括部)と、実体経済の回復を期待する声はある。しかし、ワクチン接種の遅れやコロナの収束が見通せないリスクを消費者や経営者は払拭(ふっしょく)できる状況にはない。

 春以降の景気回復シナリオを基にした株高と、実体経済との乖離(かいり)はしばらく続きそうだ。

(神崎修一・編集部)

(桑子かつ代・編集部)

(斎藤信世・編集部)

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