法務・税務 コロナ後に残る弁護士

「法外な費用を請求」「金で動く」信頼できない「ブラック弁護士」の見極め方

東京地裁・東京高裁などが入る合同庁舎
東京地裁・東京高裁などが入る合同庁舎

近年、弁護士の数は大幅に増えたが、弁護士の仕事は増えていない。そのため、「報酬を取れる案件から、できるだけ多くの報酬を得よう」と考えがちになる。

弁護士からすれば、弁護士を利用する機会が多く、費用の「相場」を知っている企業や資産家より、相場を知らない一般市民に高額な報酬を請求するほうがたやすい。

そのため、一般の市民が適切に弁護士を利用するためには、弁護士を「見極める力」が必要だ。

弁護士の仕事量の減少は、地方裁判所の民事訴訟事件の件数にも表れている。

最高裁判所の「裁判所データブック」によると、全国の地裁が新規に受理した民事通常訴訟の数は、2019年は13万4934件と20年前に比べ減っている。

一方、日本弁護士連合会「弁護士白書」によれば、全国の弁護士の数は19年、4万1118人と20年前の約2・5倍に増えている。

いざトラブルになった時、頼りになるのは弁護士のはずだが、その能力が報酬に見合わなかったりすれば、さらに傷を深めてしまう。

ここでは、依頼してはいけない弁護士、避けた方がよい弁護士を見極めるポイントを解説したい。

注意ポイント1 費用の説明をしない

弁護士は原則、受任した事件については委任契約書を交わし、金銭を受け取れば領収証を発行しなければならない。

これは日本弁護士連合会の規定として定められている義務だが、中にはこれらを怠る弁護士がいる。

受け取った報酬の額を依頼者に分かりにくくすることで、さらなる追加の報酬を請求しようと考えている可能性がある。

また、委任契約書を作成しても、弁護士費用について分かりやすく説明をしない弁護士は避けた方がよい。

報酬について依頼者に意図的に曖昧に説明するのは、弁護士の都合であることが多い。例えば、高額な報酬が発生する可能性があり、そのことを依頼者が理解した場合、依頼を取りやめることを弁護士が恐れていることなどが考えられる。

注意ポイント2 弁護士登録3年以内

弁護士登録3年以内の弁護士や事務所での勤務経験がなく、いきなり独立開業する「即独弁護士」は弁護士としての経験が不十分なことが少なくない。

そうした経験の浅い弁護士は、既存の顧客が少ないため、弁護士の競争が激しくなる中で、いきおい宣伝や広告、顧客勧誘行為も派手になっている。

「自分は優秀である」「自分にまかせれば大丈夫」などと言う弁護士や過剰な顧客勧誘行為をする弁護士もいる。

しかし、宣伝、広告だけでは弁護士の経験や能力などは分からない。事務所のホームページなどで弁護士の経歴やこれまでに扱った事件、弁護士費用の額、著書・論文の有無などの情報をあらかじめ調べたうえで、経験の浅い新人弁護士や即独弁護士への依頼は避けた方が無難だろう。

注意ポイント3 強引な和解、裁判

弁護士費用の多寡に関係なく誠実に事件の処理をする弁護士は多いが、中には「金で動く弁護士」も存在する。

「金で動く弁護士」は、収入につながらない事件を引き受けず、引き受けても熱心ではない。着手金の額が低額の場合に、事件処理の途中で報酬が見込めなくなると辞任する弁護士もいる。

また、強引に和解をさせる弁護士にも要注意だ。

和解が決裂して判決に至れば、裁判に時間や費用がかかるばかりか、裁判の結果次第で弁護士の報酬も変わってしまう。

和解であれば報酬が早期に確定することがあるので、依頼者が望まなくとも和解に持ち込もうとするのだ。

また、交渉や調停で解決が期待できる事件でも、裁判の着手金や報酬を得るために、あえて裁判を起こす弁護士もいる。

弁護士は本来、依頼者の話をよく聞き、依頼者の意思や気持ちを尊重したうえで適切な紛争の解決をしなければならない。

しかし、中には依頼者の意思を無視し、自分の考えを押しつける弁護士もいる。

依頼者の立場から、弁護士の姿勢に納得できなかったり違和感を覚えたりしたら、できるだけ早く解任に踏み切ったほうがいい。

   *   *   *

弁護士選びは商品選びに似ている。店にあふれる多種多様な商品の中で選択に迷う消費者は多い。

性能の良い商品もあれば、欠陥があったり粗悪だったりする商品もある。

弁護士について情報収集したうえで、最終的には弁護士に直接相談して(30分5000円程度)、信頼できるかどうかを自分の目で確かめてほしい。

(山川大介・ライター)


弁護士報酬の「相場」 経済的利益の1割

弁護士費用には弁護士への依頼時に払う「着手金」と紛争解決時に払う「報酬」があり、いずれも依頼者と弁護士の間の契約で原則として自由に取り決めることができる。

弁護士報酬の相場は、弁護士活動の結果として依頼者が得る経済的利益の10%である。この相場は業界の慣例で、弁護士が作成する委任契約書においても経済的利益の10%を弁護士報酬と記載するケースが多い。

経済的利益とは、例えば依頼者が1億円を請求された裁判で、弁護士活動の結果として請求棄却の判決を得た場合、依頼者の経済的利益は1億円となる。

経済的利益の10%という慣例に従えば、この場合の弁護士報酬は1000万円となる。

ただし、1000万円を請求する弁護士もいれば、1000万円は高過ぎるとの判断で大幅に減額する弁護士もいる。

遺産分割や交通事故の保険金請求など経済的利益の額が増えれば増えるほど、弁護士報酬の慣例である1割の報酬は高額になる。

契約書作成は義務化

日本弁護士連合会は2014年、報酬に関するトラブルを避けるため、弁護士と依頼者の間で弁護士費用に関する契約書の作成を義務づけた。

これを作成しなければ、弁護士会から懲戒を受けることもある。経済的利益の1割という弁護士報酬の水準はあくまで慣例にすぎず、経済的利益が高額になる可能性のある案件では、慣例にとらわれず事前に報酬を決めておくことが重要だ。

例外的な扱いになっているのは、過払い金返還請求の案件だ。過払い金返還請求の案件では過去、高額な報酬を請求するトラブルが多発したため、日弁連の「債務整理事件の規律を定める規定」により、過払い金請求事件の報酬額は回収した金額の25%を上限に制限されることになった。

(山川大介)

(本誌初出 本当に信頼できる? 「悪い弁護士」の見極め方 気を付けたいポイント3=山川大介 20210316)

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