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「潮目が変わった」環境意識 亀岡市がプラ製レジ袋を禁止 循環経済へ企業も活動加速=具志堅浩二

河川敷に漂着したプラごみ(東京・荒川河川敷)(筆者撮影)
河川敷に漂着したプラごみ(東京・荒川河川敷)(筆者撮影)

「市の条例で1月からプラスチック製レジ袋の提供が禁止されているんです。紙袋ならございますが」。京都府亀岡市のコンビニエンスストアで2月中旬、プラスチック製レジ袋はないのかと尋ねると、女性店員が丁寧に教えてくれた。

 京都市の北西に隣接する亀岡市は1月1日、市内の全小売店でプラ製レジ袋の提供を禁止する条例を施行した。紙製など他の素材の袋の配布も有料化を義務付ける。市内にあるスーパーのレジ付近では、エコバッグを広げて購入した品を詰め込む客の姿が見られた。店では有料の紙袋を用意するが、利用する人は見る限りいなかった。

亀岡市のプラスチック製レジ袋禁止条例の啓発ポスター(亀岡市提供)
亀岡市のプラスチック製レジ袋禁止条例の啓発ポスター(亀岡市提供)

「当店でも紙袋を有料で提供しています。世界の脱プラ化の流れを考えると当然の施策でしょう」と食品などを扱う小売店の女性店員は納得顔。プラ製レジ袋を廃棄し、客には商品を裸の状態で渡すようになったという店もあった。一方、冒頭とは別のコンビニの若い男性店員は「紙よりプラスチックの袋の方がいい。商品を入れやすいんです」と苦笑。ある店ではなんとプラ製レジ袋を有料で提供していたので、配布は禁止では、と尋ねると、店長が「配布ではなく販売です」と硬い表情で釈明するという一幕もあった。

 とはいえ、この条例を市民は受け入れている模様。亀岡市環境市民部の担当者は、市内のスーパー12店の1月のエコバッグ持参率について「集計中ですが、9割は間違いなく超えそう」と言う。条例施行前の昨年12月は87・7%だった。小売事業者らが加盟する亀岡商工会議所の岸親夫専務理事は「この件で今のところ会員からの相談は入っていません」と話す。

亀岡市内のスーパーで有料配布されていた紙袋
亀岡市内のスーパーで有料配布されていた紙袋

有料化で辞退者7割

 国連環境計画(UNEP)によると、レジ袋を含む容器包装プラは2015年に全世界で発生したプラごみの約5割を占める。プラごみによる海洋汚染問題に世界的な関心が集まる中、各国が進めるプラごみ削減策でも容器包装を含む使い捨てプラスチックがターゲットに。例えば、カナダではレジ袋やストローなど6種類のプラの使用を禁じる方向で検討が進む。

 日本では、19年5月に使い捨てプラごみの削減目標などを定めた「プラスチック資源循環戦略」を策定。それに基づき20年7月にレジ袋有料義務化を実施した。環境省の調査によると、同年11月のレジ袋辞退者は、同年3月の30・4%から71・9%に増加した。小泉進次郎環境相は1月29日の記者会見で、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」を今国会に提出し、プラスチックの資源循環を強化する考えを示した。また、亀岡市や神奈川県をはじめ、削減目標などを定めた「プラごみゼロ宣言」を出す自治体も相次ぎ登場している。

「企業も、最近は資源循環や地球温暖化防止に取り組まなければ資本主義経済が立ち行かないという意識に変わった。その意味で潮目が変わった」と話すのは中部大学経営情報学部の細田衛士教授(環境経済学)。個人的感覚と断りつつ、細田教授は「3年ほど前から企業を含む社会全体で『SDGs(持続可能な開発目標)』という言葉を盛んに使い始めた感がある」と語る。以前から人々が潜在的に抱いていた地球環境への問題意識に、SDGsやESG投資(環境、社会、企業統治の要因を勘案した投資)が触媒となり、一気に火がついたのではないかと見る。

イオンは「半減」目標

 コカ・コーラシステムは18年1月、「容器の2030年ビジョン」を定めた。現在、使用済みペットボトルから新しいペットボトルを作る「ボトルtoボトル」などで、22年までに再生樹脂の使用率を50%以上、30年には90%に高めるとともに植物由来の樹脂も用いて新たな石油使用ゼロを目指す。再生時に、不純物の混入による樹脂のにごりや強度低下を抑える独自技術を保有。再生樹脂100%のペットボトルの飲料は19年6月に初めて発売して以降、徐々に種類を広げている。

 イオンは20年9月に「イオンプラスチック利用方針」を策定。30年までに使い捨てプラ利用量を18年比で半減、50年に8割減を目指す。目下、自社ブランド飲料水のラベルレス化、ボトルtoボトル、再生プラスチックを使ったふとん販売などに着手。1社だけの取り組みでは限界があるとして、他社との協業も模索する。

 SDGsの達成に向けて、プラ削減を進める企業も目につく。ローソンは19年3月、事業活動を通じて持続可能な社会の実現を目指す「SDGs委員会」を設置。容器包装プラスチック使用量を30年までに17年比で30%削減することを目標に掲げる。以来、コンビニコーヒーのプラ製カップを紙製に変更したほか、サンドイッチの包装削減なども実施した。19年は17年比で1・7%減だったが、広報担当者は「20年はさまざまな取り組みを進めたので上積みできるはず」という。

 ブルボンもSDGs達成に向け、21年1月にクラッカー4商品でプラ製トレーを廃止し包装量を減らすと発表。4商品のプラ使用量の約40%削減を見込む。

LOOPが事業開始

 この流れをビジネスチャンスと捉える企業も出てきている。日本製紙は18年8月、代替素材として紙へのニーズが高まると予想して「紙化ソリューション推進室」を設置。紙製包装容器など多彩な紙製品の拡販に取り組む。このうち、遮断性の高い材料を塗った紙製バリア素材は、「ポテトチップスの袋に使われるアルミ蒸着フィルムのような高い遮断性能には及ばないが、入浴剤など匂いを保つ必要がある商品や、和菓子やナッツなど酸素の侵入を妨げたい商品の包装には適している」(営業担当者)。

 プラごみ削減の効果をより高めるには、消費者の動機づけもカギになる。ビジネスを通じて環境問題の解決を目指すソーシャルベンチャーのループ・ジャパンは、今年3月から日本で開始する商品の容器をリユースする事業「LOOP(ループ)」で、消費者を引きつける魅力の提供を意識する。

 LOOPに参加するメーカーは、耐久性などを定めた同社のガイドラインに沿って容器を作る。容器には、ガラスやステンレスといった再利用可能な素材を用いる。商品は、同社サイトか参加小売店で販売。消費者は、回収用のバッグに空の容器を詰めて同社に送り返す。送料は無料で、同社は容器に破損など問題がなければデポジット料金を消費者に返金し、容器を洗浄後、メーカーへ輸送する、という流れだ(図)。メーカー側からの初期契約料と、容器の洗浄・運搬委託費が同社の収益になる。

 19年1月のダボス会議で、親会社の米テラサイクルがLOOPを発表して以降、同社グループはこれまで米・仏・英・カナダの4カ国で事業を展開。ユーザー数は計約4万人という。同事業を通じて使い捨てプラの削減と使い捨て文化からの脱却を目指す。

「プラ使用量を本気で減らすには、環境保全への意識が高い層以外からの支持も必要。LOOPの容器は高いデザイン性を追求しており、商品そのものの付加価値を高めている。また、使用済み容器をごみ箱の代わりに回収用バッグに入れて無料で送るだけなのでライフスタイルをあまり変えずに済む」とループ広報担当者は胸を張る。2月の取材時点で参加企業は資生堂や味の素、イオンなど25社。なお事業開始日は調整中という。

地道な合意形成カギ

 細田教授は「プラごみを極力減らすためには、不要なプラスチックを使わない、必要なものは可能な限り再使用する、それが無理なら再資源化することが重要だ」と話す。一方で「必要か、不要かを区分けするのが難しい場合もある」とも指摘する。

 レジ袋有料化には根強い反対意見もある。「エコバッグが汚れている場合、プラ製レジ袋の方が衛生的」「家庭の生ごみを仕分けするために必要」というものだ。プラ製ストローの利用抑制の動きにも、同様の反対意見が展開された。必要か不要かの見解が分かれる場合、こうした反対意見があることも踏まえながら、合意をどう形成していくかが課題になる。

 合意形成で参考になるのが、やはり亀岡市の取り組みだ。亀岡市では、市民や事業者らとの意見交換を基に条例の内容を検討。その後、条例案の市民説明会を開き、事業者には団体の総会に出向いて説明するなど情報提供を行った。昨年3月に市議会で条例案が可決後も、市内全世帯に環境政策を解説する冊子を配布、事業者の個別の相談にも応じるなど条例の浸透に注力した。

 大量のプラごみ排出に慣れた生活様式を転換し、循環型社会を築くには、地道な対話や綿密なプロセスを通じ、着実に人々の意識を変えていくことが欠かせない。

(具志堅浩二・ジャーナリスト)

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