教養・歴史 書評

先行者や他人の知見を巧みに活用。だから中国新世代企業は強い!=加護野忠男

『世界最速ビジネスモデル 中国スタートアップ図鑑』 評者・加護野忠男

著者 井上達彦(早稲田大学商学学術院教授) 鄭雅方(同学術院助手) 日経BP 2970円

先行プラットフォームを独自活用 急成長する最先端企業の仕事術

 ネット関連の新しいビジネスモデルを作り出した中国のスタートアップ企業群は、米国企業群に負けないスピードで成長を続けている。なぜこのような急成長が可能になったのだろうか。この説明は三つの視点から行うことができる。第一は中国の社会・政治・文化などのマクロ要因に注目するもの。第二は、出資者、パートナー、供給業者といったビジネス生態系(エコシステム)に注目するもの。第三は、ビジネスモデルそのものの秀逸さから説明しようとするもの。著者たちは、第三の視点を採用する。

 著者たちは、対象企業を3世代に分けて紹介・分析している。第1世代はテンセントとアリババ。すでにジャイアントであり、日本でもよく知られている。第2世代は、スマートフォン向けショートビデオプラットフォーム「TikTok」ブランドで知られているバイトダンス、あらゆる生活関連サービスを提供するメイトゥアン、スマホメーカーからサービス企業に変身したシャオミ。

 そして、日本ではあまり知られていないがユニークなビジネスモデルを作り上げ成長している第3世代を最初の章で取り上げている。漫画の購読サイト「快看漫画」や、美容外科の世界最大のプラットフォーム「新氧」、中国の子供と米国の英語教師をオンラインで結ぶ「VIPKID」などだ。

 事例分析にあたって著者たちが強調するのは、次の二つの特徴である。まず、新しい世代の企業は古い世代の企業が作ったビジネスモデルを活用して成長していること。本書でスタートアップを3世代に分けたのは、この点をより明確にするためである。第二の特徴は、成功が成功を呼ぶという好循環が作られていることだ。好循環を作るカギになるのは、どのような顧客を対象にどんな価値を提供するのか、その選択の巧みさである。この選択を行う際に、新世代企業は先の世代が生み出した財産であるプラットフォームを実に上手に独自の視点で活用しているのがユニークであると本書は解説している。

 翻って日本の企業はプラットフォームを作るのが得意ではないといわれるが、先駆者たちが作り出したビジネスモデルをプラットフォームとして活用するかどうかを決めるのは、先駆者の側にあるのではなく、利用する側の工夫にあることが本書を読めばよくわかる。中国の企業はできる限り先行者や他人の力を利用しようとする。これが日本企業との大きな違いである。

(加護野忠男・神戸大学特命教授)


 井上達彦(いのうえ・たつひこ) ビジネスモデルと事業創造が専門。著書に『ブラックスワンの経営学』など。

 鄭雅方(てい・がほう) 日本へ留学後、中国のIT・スタートアップに関するメディアの立ち上げに関わる。

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