経済・企業 EV世界戦

「ガソリン車全廃」のホンダが大胆なEVシフトに向けて抱える二つの課題とは=杉本浩一

明暗 日産とホンダ 険しい脱ガソリンへの移行 タイミング誤れば死活問題=杉本浩一

 ホンダは世界で販売する新車を2040年にすべてEV(電気自動車)・FCV(燃料電池車)にすると4月23日に発表した。EV・FCVの目標販売比率を先進国では30年40%、35年80%に。40年では新興国を含め100%に設定した(図に地域別の内訳)。

 日系四輪車メーカーとして、HV(ハイブリッド車)向けを含むガソリンエンジン全廃の基本方針を打ち出したのはホンダが初めて。その時点で同様の方針を発表していた主要メーカーは米ゼネラル・モーターズ(GM、中大型車を除き35年全廃)以外なかった。独ダイムラーが、(市場環境が許す場合に)30年でのEV専業化計画を発表したのは7月22日である。

 ホンダの突然の発表には驚かされたが予兆はあった。モータースポーツ「F1」への参戦終了を発表した昨年10月、FCVやEVなどの研究開発に経営資源を重点的に投入する必要があると明言していた。ホンダは八郷隆弘前社長の指揮の下、英国・トルコ・アルゼンチン・フィリピンでの四輪車生産終了、メキシコ・インドでの四輪車工場集約、今年4月からの早期退職制度の導入など事業の再構築計画を相次いで打ち出した。

 4月の三部敏宏新社長就任を機に、新たな成長戦略を発表する必要があったのだろう。ホンダ四輪車事業の売上高営業利益率の過去10期(12年3月期~21年3月期)単純平均は2・5%で、トヨタ自動車の6・7%を大きく下回っていた。特に直近3期(19年3月期~21年3月期)に限ると1・5%に過ぎない(トヨタは7・2%)。

燃費競争はしない

 また、ホンダはHVの「燃費競争」から近年距離を置いていた。20年2月発売の「フィット・ハイブリッド」の燃費は、ガソリン1リットル当たりの走行距離は最高29・4キロ(国際的な基準である「WLTCモード」)。トヨタの「ヤリス・ハイブリッド」は同36・0キロである。ホンダは次世代EV・FCVの開発に、数年前には経営資源を既にシフトさせていた模様である。

 ホンダが50年でのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)実現を真剣に考えていることは理解できた。しかし、株式市場の反応は控えめであった。ホンダ株の翌営業日(4月26日)の終値は3290円(23日終値比1・8%高)で、翌週末(30日)の終値は3232円(同1円安)。GMの同様の発表の際、発表当日(1月28日)の終値は51・04ドル(27日終値比3・4%高)となり、1週間後(2月3日終値)には54・25ドル(同10%高)となった。

 発表直後のホンダの株価が…

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週刊エコノミスト

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