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“災害過保護を”脱却して「分散避難」へ=片田敏孝

片田敏孝・東京大学特任教授 “災害過保護”脱却し「分散避難」を 

 防災の専門家に減災や住民の意識をどう変える必要があるかを聞いた。

(聞き手=中園敦二・編集部)

 近年、日本の自然災害は激甚化している。2019年5月に発行した東京・江戸川区の水害ハザードマップの表紙に「ここにいてはダメです」と記した。区は区民からの反発を危惧したが、最終的には「よく率直に言ってくれた」という声があった。「そこにあるリスク」を客観的に、正直に伝え、どうすればいいかを行政だけでなく、地域が、そして自分はどうするのかを考えなければならない。

 日本は自然豊かな国で、その恵みは豊かだが、災いの影響も大きい。恵みはもらうが、災いは行政が取り除くべきだ、という考え方はどうか。どれだけ高い堤防を造っても、それを越える津波だってあり得る。それが行政の怠慢となるのか、無限に守れるはずはない。そんな住民が受け身の姿勢で防災をやっているのは、日本だけだ。近くに火山があれば、どこに住んでも一緒でゼロリスクはあり得ないということだ。

 できることは、例えば、いま海辺近くで津波のリスクがあるという居住者に対しては、行政が安全な高台に団地などを開発して何らかの優遇政策の中で自発的に移転を促すような発想で優しく対応していくべきだろう。 

 日本の防災は従来、行政が住民に情報を出し「どこどこへ避難を」と、何もかもお膳立てした“災害過保護”状態だった。

 例えば、雨が激甚化して一時にザーッと降るような線状降水帯は予測できない。また、数日にわたってダラダラ降り続けると、雨量に基づいて避難情報は出せない。結局、情報を発信できないまま、土砂災害が起きたこともある。

 一般的にいって土砂災害は非常に不確実で、ハザードマップの危険ゾーンのエリア外で発生して人が亡くなっているケースもある。

 これだけ激甚化している災害の中で、情報に基づいて逃げてくれれば…

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