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《戦時日本経済》INTERVIEW 橘川武郎・国際大学副学長 「サハリン」LNG権益は死守すべき

 対プーチン政権を制裁する国際包囲網が形成された中で、ロシアからエネルギーを輸入する日本はどう対処すべきか。国際大学の橘川武郎教授に話を聞いた。

(聞き手=浜田健太郎・編集部)

── 日本は液化天然ガス(LNG)のロシア依存度が8%。ロシア・サハリン島での開発事業のうち、主に石油を生産する「サハリン1」から米エクソンモービルが、LNGを日本に出荷している「サハリン2」から英シェルが撤退を決めた。

■電力・ガス業界にとって大問題だ。広島ガスは、サハリン2からのLNGが原料調達の約5割にも上る。サハリン1と2には日本の商社や石油会社が権益を持つが、経済的に手放す理由はないだろう。(戦時日本経済 特集はこちら)

── 対ロシア制裁で共同歩調が求められている。日本に撤退圧力が高まることは。

■メジャー(国際石油資本)のうち、エクソン、シェルのほか英BPがロシアから撤退する。一方、仏トタルエナジーズは、新規投資はしないが、既存の対露投資は引き揚げないと宣言している。それでも、強い批判を浴びているわけではない。サハリンから日本勢が抜ければ、中国やインド企業が必ず入ってくるだろう。

── 調達先を多様化して徐々にロシア比率を下げていくことがよいのか。

■ロシアからのエネルギーは減らす方向だろう。ただ、国際的に天然ガスの奪い合いがすでに起きている中で、供給源を軽々に絶つことはリスクが大きい。慎重に対処すべきだ。第6次エネルギー基本計画(昨年10月策定)では、2030年時点の電源構成でLNG火力の比率を20%と、第5次計画(27%)から大きく減らしている。産ガス国には「日本はLNGを減らすのか」というメッセージを送った格好で、国際市場でLNGの「買い負け」を起こしていた。

── 原発や石炭火力はどうしたらよいか。

■有事に対応可能な選択肢を増やす上で、原発や石炭火力がエネルギー安全保障のセーフティーネットになることを政府は明確にすることが大事だ。

── 原発依存度を可能な限り下げるとの従来方針はどうすべきか。

■従来の通りでよいだろうが、危機的な状況における原発の位置付けを明確にしてもよい。他方で、ロシアがウクライナの原発を占拠した。軍事作戦の標的になることが明らかになった。従来は、地震や津波、大型航空機突入が最大リスクとして考えられてきた。これに軍事作戦が入ってくるとなると、原発は使えるのかという根本的な検討を始めることになるかもしれない。


 ■人物略歴

きっかわ・たけお

 1951年生まれ、1975年東京大学経済学部卒業、経済学博士(東大)。2007年一橋大学商学研究科教授、15年東京理科大学大学院イノベーション研究科教授、21年より現職。

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