週刊エコノミスト Online マンション管理新時代 

管理・修繕費用がうなぎ上りのタワマンの行く末=榊淳司

タワマンは便利だが、管理も大変(写真と本文は関係ありません)
タワマンは便利だが、管理も大変(写真と本文は関係ありません)

タワマンの行く末 管理・修繕費用がうなぎ登り 「月7万円」の割高な住まい=榊淳司

 <第2部 マンション管理のこれから>

 タワーマンション(タワマン)のブームが続いている。しかし、そこには「管理」という大きな死角が潜んでいる。そもそも、タワマンは板状(ばんじょう)型(階数20階未満のマンション)に比べて、居住性はもちろん、維持・管理面で大きな弱点を抱えている。むしろ建設自体を可能なら避けるべきカテゴリーである。そのことをまず、簡単に説明しよう。(マンション管理新時代 特集はこちら)

 タワマンとは「限られた面積の土地に多くの住戸を作る」というところに意味がある。都心など土地供給に制限が多い立地にふさわしい住形態だ。土地に余裕がある埋め立て地では、本来タワマンを作る必要はない。しかし、現実に東京の湾岸エリアにはタワマンが林立している。なぜか?

 タワマンの開発分譲はマンションデベロッパー(開発業者)にとって、かなりおいしい事業になるからである。デベロッパーにとって、50戸の板状型も500戸のタワマンも、開発事業にかける手間ひまはほとんど変わらない。しかし、得られる利益は10倍違う。だから、タワマン開発が可能な土地には、必ずタワマンを作ってきた。

 タワマンは本来の建築規制通りなら建設できない。必ず行政側が特例として規制を緩める必要がある。だからタワマン建設を嫌がる京都市や長野県軽井沢町、東京都杉並区などにはタワマンはゼロかほとんど存在しない。またすでに市街地が形成されている場所だと、既存住民がタワマン建設に反対する。タワマンは周辺の住環境を悪化させるからだ。

劣化しやすい湾岸エリア

 ところが、埋め立て地には既存住民がいない場合が多い。だから、行政側も規制を緩和しやすい。その結果、土地に余裕があるはずの埋め立て地にタワマンが林立することになった。デベロッパーと行政がなれ合ったご都合主義の結果である。しかし、実のところ、湾岸埋め立てエリアはさまざまな面でタワマンにはふさわしくない。

 タワマンの構造は基本的にRC(鉄筋コンクリート)造である。骨格をRCで造り、外壁はALC(軽量気泡コンクリート)パネルにサッシ(窓枠)などをはめ込む。板状型に比べて接合面が多くなり、そこにはコーキング(隙間(すきま)の充填(じゅうてん))剤が使われる。コーキング剤は15年程度で劣化するので、新しく充填し直さなければ雨漏りの原因となる。湾岸エリアは潮風が吹き付けるので、コーキング剤が劣化しやすい。湾岸タワマンは必ず15年に1度程度の割合で外壁補修を伴う大規模修繕を行うべきである。

 今から7年ほど前、ある湾岸タワマンの大規模修繕工事を巡る経緯が話題になった。地上54階建て、総戸数約750戸のタワマンが大規模修繕工事を行うために、スーパーゼネコン5社に見積もりを依頼したところ、全社から辞退されたのだ。工事規模は約20億円。スーパーゼネコンにとっては「面倒くさくてもうからない仕事」だったのだろう。

 困った管理組合の理事たちが、そのタワマンを施工した準大手のゼネコンを説得。結果的にその準大手が請け負うことになって、事なきを得たそうだ。

 タワマンの外壁修繕は、屋上から作業用ゴンドラや足場をクレーンでつり下ろす方式が主流だ。外壁に取り付けたレールにゴンドラや足場を接続して、作業環境を安定させるケースもある。どちらにしても風速10メートル以上の場合は危険なので作業できない。もちろん、海に近い湾岸エリアは強い風が吹きやすい。

 他にもさまざまな困難さや高額費用を伴う補修工事が発生する。例えば、特に湾岸エリアの場合は豪華な共用施設がある場合が多い。プールや大浴場、ジャグジーなど「水もの」は維持管理にも費用が発生するが、修繕費はそれ以上。基本的に1000万円単位である。

 さらに、築30年前後が適齢期である2回目の大規模修繕では、エレベーターの設備更新がメニューに入る。タワマンの場合はエレベーター全基が特注なので、設備更新には1基当たり数千万円かかる。排水管や上水管も同時期に取り換える必要がある。オートロックなどのセキュリティー設備の交換も2回目あたりである。これもタワマンの場合は特注なので高額になる。

工事コストは1・5倍に

 日常管理でも、タワマンの場合は清掃やゴミの整理・収集などで多くのマンパワーを必要とする。昨今、人手不足は全業種にわたっており、人件費はかなり上がった。それに伴いタワマンの管理コストも急上昇している。管理会社から管理組合への業務委託料値上げ交渉も盛んに行われている。

 大規模修繕工事などのコストもうなぎ登りである。専門業者に取材すると、この10年で1・5倍程度に上がってしまったという。今後、さらに値上がりしそうだ。

 その理由は、タワマンの竣工が2000年代から増え始め、07年にいったんピークを迎えていることによる(図)。このころに竣工したタワマンが、今年には大規模修繕工事を行う目安になる「築15年」を迎える。タワマンの大規模修繕工事を請け負える業者は限られているので、需要が供給に勝れば当然値上がりにつながる。

 現状、多くのタワマン管理組合では修繕積立金が不足している。1回目の大規模修繕は何とか行えても、2回目は金融機関から借り入れを行うケースも多い。修繕積立金を大幅に値上げしないと3回目は不可能になるタワマンが続出するだろう。

 こういった事情から今後、タワマンの所有者が負担する管理費と修繕積立金は、板状型に比べると2~3倍程度まで値上がりする可能性が高い。目安としては1平方メートル当たり1000円程度。70平方メートルの住戸なら月7万円前後となる。今までのような「板状型プラスアルファ」レベルではなくなり、タワマンは「日常コストが割高な住まい」となるはずだ。

 それでいて、地震や水害などで電力供給が途絶えるとエレベーターとトイレが使えなくなって、ただのコンクリートの箱と化す。そのことは東日本大震災や19年の台風19号の被害で実証されている。今もタワマンブームが続いているが、高コストで災害に弱いという実態が知られるようになると、人気に陰りが出てくるのは必定だ。

(榊淳司・住宅ジャーナリスト)

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