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米の「逆イールド」恐れるに足らず いま最も注視すべき指標とは=渡辺浩志

 米連邦準備制度理事会(FRB)は、高インフレへの警戒から、3月に利上げに踏み切った。今後は速いペースで金融引き締めを進め、景気を犠牲にしてでもインフレを抑える構えだ。

 これを織り込み米国債の金利が急上昇し、3月末には逆イールド(長短金利水準の逆転)が発生した。これを景気後退の予兆とみる向きもある。

 ただし、そこには金利水準の視点が欠けている。過去を振り返ると、長短金利が逆転した時期は、同時に金利と名目潜在成長率も逆転していた(図1)。現状では長短金利差はゼロ近辺となるも、国債金利はまだ3%以下、政策金利はゼロ近傍であり、名目潜在成長率(3・8%程度)より低い。

 長短金利差は、「金融機関の預貸利ざや(=貸出金利-預金金利)」と解釈できる。これがマイナスとなれば、金融機関収益が悪化し、貸し出し態度が厳格化しやすい。つまり、逆イールドは「資金供給」を減少させ、景気減速を招き得る。

 一方、名目潜在成長率と金利の差は「実物資産の投資利ざや」を意味する。名目潜在成長率は実物資産投資から得られるリターンを意味し、金利は投資コストを表すためだ。リターンとコストが逆転すれば、実物資産投資は止まり、「資金需要」が消失する。

名目潜在成長率との差

 現在は金利水準が低く、実物資産の投資利ざやがまだ十分に厚い。このような良好な事業環境では、資金需要は途切れない。また、倒産(貸し倒れ)リスクが高まらなければ、貸し出し態度が厳格化することもない(図2)。つまり、景気を見る上で決定的に重要なのは長短金利差ではなく、名目潜在成長率が金利を上回っているかどうかである。

 当面の米国経済は、十分な投資利ざやが確保され、景気拡大が続くと見込まれる。また、現時点で最も厳しい利上げシナリオ(最タカ派のセントルイス連銀ブラ…

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週刊エコノミスト

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