週刊エコノミスト Online 今なぜ麻雀ブーム?

女性と子どもが健康マージャンに夢中 その納得の理由 白鳥達哉(編集部)

 頭脳を使うクリーンな盤上ゲームとして、麻雀(マージャン)が再評価されている。>>特集「今なぜ麻雀ブーム?」はこちら

健康促進に思考力鍛錬に、教室はいつも満席

「ロン、チートイドラドラ6400点!」──。都内の銀座にあるマージャン店「麻雀クラブ柳」は、平日の昼間にもかかわらず満員御礼。マージャンを楽しむ声が方々で上がる。ただ、少し変わった光景なのは、客層がすべて女性であることだ。

 酒・たばこ・ばくち……。マージャンといえばこのようなイメージが染みつく、大人の遊びの代名詞とされてきた。しかし、最近はこれらの要素を排除し、純粋なスポーツ競技として楽しむ「健康マージャン」(飲まない・吸わない・賭けないマージャン)が注目され、にわかに人気が高まっている。

麻雀クラブ柳の女性専用教室は、営業中の4店舗が常に満席の状態
麻雀クラブ柳の女性専用教室は、営業中の4店舗が常に満席の状態

 麻雀クラブ柳では、32年前から女性専用のマージャン教室を開校し、営業を続けてきた。高齢層の女性を中心に生徒が集まり、現在の教室数は都内4店舗、さらに1店舗を出店準備中だ。従来の客層を相手にするお店も数店舗営業しているが、コロナ禍になってから客が3分の1に激減し、今も戻っていない。女性専用の教室店舗もいったんは客足が落ち込んだものの、ここ最近はすべての店舗で戻ってきているということからも人気の度合いがうかがえる。

 お店を運営する「柳(東京都中央区・銀座)」の柳田誓也代表は、「開校当初、生徒数は1日3~4人で週1回の開催だったが、口コミで広がっていって、いまは毎日開催。60人の席がほぼ埋まる状態だ」と話す。

 生徒が入りきらず、近所にある店舗を臨時教室として使うことも珍しくない。2019年時点での生徒数は3672人、銀座店だけでも総来校者数2万5000人を超え、都内や関東圏だけでなく、東北や北海道から通う生徒もいるそうだ。この人気について柳田氏は、「女性は、男性と比較してハラハラ・ドキドキするような体験が少ないと感じる。マージャンはそのような気持ちを簡単に味わえることも大きいのでは」と分析する。

「マージャンは健康でいることに、本当に役に立っている」と話すのは、同教室に毎日のように通っている中山房子さん(87)。もともとは家族と自宅でマージャンを楽しんでいたが、結婚など家族が離ればなれになったのが、教室に通うきっかけとなった。「常に頭を使うからか、夜も8~9時間ぐっすりと眠れる。教室に新しい人もどんどん入ってくるので、そういった人との出会いも健康に良い刺激になっている」(中山さん)

 同じく教室に通う別の女性客(60)は、「例えば囲碁や将棋だと、うまい下手で勝負が決まってしまうが、マージャンはそこに運も加わる。初心者でも強い人に勝てるのが面白い」と楽しさを語る。また、「男性は勝負にこだわる人も多い。女性だけだと勝ち負けをそこまで気にせず、ゲームとして楽しめる。教室なら1人でも参加しやすいのも良い点」という。

Mリーグの存在

最終戦のパブリックビューイング会場はMリーグのファンでひしめき合った ©Mリーグ
最終戦のパブリックビューイング会場はMリーグのファンでひしめき合った ©Mリーグ

 スポーツ競技としての人気には、18年に始まった「Mリーグ」の存在も大きい。

 Mリーグは、渋谷ABEMAS(サイバーエージェント)、赤坂ドリブンズ(博報堂)、KONAMI麻雀格闘倶楽部(コナミアミューズメント)など、八つのチームがリーグ戦で優勝を目指し、半年間を戦う。

 各チームは、五つのマージャンのプロ団体に所属する選手4人で構成され、プロ同士の勝負の駆け引きや、人間的なドラマ、分かりやすい解説や映像演出などで視聴者を引き込む。

 今年4月26日に行われた2021─22シーズン最終戦では視聴数300万を超え、都内のベルサール六本木で開催した同対戦のパブリックビューイングでは、324席ある8000円のチケットが瞬く間に完売。マージャンを知らない若者や女性などにも広く波及するほどの人気コンテンツに成長している。

学習効果に保護者も期待

ニューロン大井町校(品川区)の子ども専用教室に通う少年たち
ニューロン大井町校(品川区)の子ども専用教室に通う少年たち

 マージャンを楽しむのは、大人だけではない。まだ芽吹き程度ではあるが、子どもの競技人口も増え始めている。一般社団法人ニューロンは、東京や大阪など12カ所で子ども専用教室を開いており、約1500人の生徒を抱える。

 代表理事を務める池谷雄一氏は、「マージャンはもともと、家庭でやるテーブルゲームで、そこに年齢の縛りはない。地域社会におけるマージャン店のイメージは残念ながら良くないが、クリーンな環境を提供すれば、子どもや女性も来ることができる場所のはず」という思いから教室を開校した。

女の子も真剣そのもの
女の子も真剣そのもの

 子どもたちにとって、マージャンの魅力とは何か。今日初めて参加したという小学1年生のAさん(6歳)は家族でマージャンを始めたのは幼稚園から。この日は千葉県の実家から友達(小学4年のBさん〈9歳〉)と一緒に参加。「(役ができて)ツモったり、ロンすると、うれしい」と笑顔をはじけさせた。

 お父さんから教わり、自分でもアプリで勉強している小学3年生のC君(9歳)は、「みんなとリアルに打てるのが楽しい」と、月に3回のペースで教室に通うという。

 通い始めて4年目になるという小学6年生のDさん(12歳)は、マージャンが強くなりたいという思いから教室の門をたたいた。「たくさんの人と打つようになってうまくなったし、地元以外の友達も増えて楽しい」と息を弾ませる。

 生徒の保護者も、マージャンが持つ学習効果に注目している。Dさんの父親によれば、「数字になじませようと思ってマージャンを教えた。学校とは違う環境があることでリフレッシュにもなるし、数学的な考えも身についている」そうだ。

 点数の計算やどのような役を作れば逆転できるのかという数学的思考力、対戦相手の状況を読む分析力、対戦のあとに自分の打ち方を説明するプレゼン力やコミュニケーション力。マージャンはさまざまな能力を鍛える状況が生まれやすいことは確かだ。

 マージャンに対する風向きは着実に変わりつつある。野球やサッカーと同じように、マージャンがスポーツ番組として当たり前のようにお茶の間に届く未来も、すぐそこに来ているのかもしれない。

(白鳥達哉・編集部)


週刊エコノミスト2022年11月22日号掲載

今、なぜ麻雀ブーム? 健康促進や思考力の鍛錬に 女性や子ども向け教室が人気=白鳥達哉

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