マーケット・金融 論争で学ぶ景気・物価・ドル円

景気の先行指標「銅金レシオ」は上げだが、不透明が濃い 芥田知至

 金融市場動向を分析したり、世界景気やその中心である米国景気の先行きを占う上で、銅価格を金価格で割って算出する「銅金レシオ」が注目されることがある。

 銅は、用途が広範なベースメタルの代表である。電線や発電機、変圧器などとして、ビルや自動車、家電製品などを作るのに不可欠な原材料である。経済全体がエレクトロニクス化するのに伴って、消費量が増えている。国際銅研究会(ICSG)によると、世界の銅消費量は、1900年に50万トン以下であったが、2021年には2500万トン超となっている。

 一方の金は、希少で高価な貴金属の代表である。一般的には、投資用や宝飾品など、価値の貯蔵手段としての用途が中心である。ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、人類がこれまで採掘した地上にある金の総量は、21年時点で20.5万トンと推定される。これは体積にすると、一辺22メートルの立方体に収まる大きさである。

 金と銅の価格は、ともにドル建てコモディティー(商品)としての性格から、ドル相場および米国の金利やインフレの影響を受けやすい。その結果、基本的に銅と金の価格は連動している。

 しかし、両者には差異もある。銅の消費量は、景気動向や最終製品の需要動向によって、大きく変動し、価格の変動が金よりも大きい傾向がある。原材料である銅の取引は、最終製品の取引に先んじて行われる傾向があることなどから、銅価格は世界景気の先行指標としても注目される。また、銅地金の過半は中国で消費され、中国の景気動向の影響を強く受ける場合がある。

 一方、金は景気後退リスクやインフレリスクが意識される局面で選好される。金融商品との連動性が強く意識されるため、ドル相場や米金利の変化に敏感に反応する。

 結果として、銅金レシオは、景気回復の局面では上昇しやすく、景気減速の局面では低下しやすい(図)。すなわち、景気回復局面では、需要増加観測から銅が上昇しやすく、景気後退リスクの緩和から金は相対的に敬遠されやすいため、ともに銅金レシオを押し上げる方向に働く。景気減速局面では、需要鈍化観測から銅は下落しやすく、景気後退リスクや景気に遅行する傾向があるインフレの高まりから金は相対的に選好されやすいため、ともに銅金レシオを押し下げる方向に働く。

景気動向を先読み

 こうした銅金レシオは、米国の長期金利や株価との連動性が高いことで知られ、景気の先行指標としても注目される。米供給管理協会(ISM)が毎月発表している製造業購買担当者景気指数(PMI)は、米景気動向をいち早く捉える指標として注目されるが、銅金レシオはこのISM製造業購買担当者景気指数との連動性が高い。

 足元では7月半ば以降、銅金レシオは上昇している。米国の大幅利上げやドル高が続いたことで金相場が軟調だった一方、中国需要の回復期待などから銅が上昇したことが要因だ。

 しかし、この上昇が続くかは予断を許さない。米国の利上げペースの縮小観測が金相場の上昇につながるようになっている。銅については、中国の「ゼロコロナ」政策や不動産不況の影響、またこれまでの米国の利上げの累積効果で需要が鈍化する懸念は拭えない。銅金レシオからみる世界景気や米国景気の先行きは、不透明感が濃い状況である。

(芥田知至・三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員)


週刊エコノミスト2022年12月13日号掲載

景気・物価・ドル円 銅金レシオ 世界経済の不透明感が強まる=芥田知至

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