経済・企業 書評

書店・取次が立地、物流網を活用し新規事業 永江朗

 紙の書籍・雑誌市場が縮小し続ける中、出版取次各社は書店網や物流システムを活用したビジネスの開拓に力を入れている。

 大手取次トーハンの「ブクマスペース(BOOKMARK SPACE)」は、スペースレンタルのプラットフォーム。店頭スペースをイベントなどに貸し出したい書店と利用したい事業者をマッチングするネット上のサービスだ。事業者はブクマスペースのサイトでスペースを提供する書店を探して申し込み、料金を支払う。トーハンは手数料を差し引いて書店に支払う。店舗によってはイベント時に出版物を併売することもできる。

 筆者が住む街でも、駅前の書店店頭で宅配ネットスーパーがプロモーションをしているのを時々見かけるが、このサービスを通じてのものだ。提供されるのはふだんは使われていない店舗入り口脇のスペース。畳1枚(1.8平方メートル)ほどの広さで、料金は1日1万8000円からだという。また、隣町の駅前にある書店は、入り口脇の軒先だけでなく、街路から見える店舗内スペースや階段壁面も貸し出している。

 出版取次1位の日販(日本出版販売)は、リサイクル事業の実証実験を東京都内のローソン店舗で実施している。返品物流を活用して古着を回収するというもの。対象の店舗はローソンが東京都豊島区に開設した「グリーンローソン」。店員のアバター(分身)による接客や弁当廃棄ゼロ、プラスチック削減など、バリアフリーや環境負荷軽減について検証する実験店である。

 日販は店舗に置かれたリサイクルボックスで衣類を集め、書籍・雑誌の返品物流に乗せて出版共同流通蓮田センター(埼玉県蓮田市)に運ぶ。回収した衣類は、状態・アイテム・素材・色ごとに分類され、良質なものは中古衣料として海外へ出荷、再利用が難しいものは軍手やウエスなどの原材料としてリサイクルされる。

 書店も取次も紙の雑誌・書籍だけ商っていたのでは存続できない。だが、立地や信頼性、流通網など、まだまだ持っている資産はたくさんある。それらを再評価し、利活用していくことが生き残りの道だ。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2023年1月24日号掲載

永江朗の出版業界事情 書店・取次ならではの新規事業

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