テクノロジー エネルギー

仮想発電所(VPP)にJERA参入 再エネ導入を加速 土方細秩子

一般家庭の太陽光発電、蓄電池、EVがVPPを構成する テスラ提供
一般家庭の太陽光発電、蓄電池、EVがVPPを構成する テスラ提供

 再エネを最大限活用する仕組みとして、仮想発電所(VPP)が注目を集めている。

東京都の太陽光パネル義務化も追い風に

 日本は2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)に向け、30年に温室効果ガスの46%削減(13年比)を掲げている。目標達成のため、中心となるのは再生可能エネルギー(再エネ)の促進だろう。

 その際に問題となるのが、太陽光や風力発電などの再エネは季節や天候に左右される、不安定な電力供給源である点だ。太陽光なら1日の中で朝から夕方までは発電可能でも夜間の発電量はほぼゼロになる。こうした「発電量の変動」という再エネの弱点を克服し、余剰電力を最大限に生かす点で注目が集まっているのがVPP(仮想発電所)だ(図)。

 VPPは、一般家庭の太陽光発電、業務用の太陽光発電、風力発電、バイオマスなどの再エネで得られた余剰電力を家庭用あるいは業務用蓄電システム、電気自動車(EV)などにため、インターネットで需給バランスを調整しながら必要時に送電網に還元して全体でひとつの発電所のように運用する仕組みを指す。火力や原子力が1カ所で集中して発電するのに対し、インターネットのクラウドのように、電源が分散しているのが特徴だ。

米テスラが先行

 この分野では、米EVメーカー、テスラが先行している。同社が米カリフォルニア州で運用しているVPPへの加盟家庭は6000世帯を超え、ピーカー発電所(電力不足時に臨時に稼働する発電所)に置き換わる規模に成長しつつある。

 テスラのVPPへの加盟の条件は、①自宅にソーラーパネルが設置されている、②テスラの蓄電池システム「パワーウォール」のような蓄電設備がある、③EVを所有している──の3点だ。テスラはVPPの「リソースアグリゲーター」として個別電源を集約し、余剰電力を送電網に還元、地域の電力供給を補う役割を果たす。具体的には、独自のアルゴリズムにより地域の送電網への電力供給が少なくなる時間帯に、各家庭がためた電気を送る「放電イベント」を行う。その対価として、各家庭は通常時よりも高い値段で売電することが可能になる。

 テスラはVPPを英・豪・日でも展開しており、英国と米テキサス州では電力事業者としてのライセンスも取得済みだ。

 このVPPは日本でも導入が進められている。東京電力と中部電力の合弁会社で日本最大の火力発電事業者であるJERAはその一社だ。同社は、テスラのような地域のリソースアグリゲーターを束ね、一般送配電事業者や小売電気事業者と電力取引をする「アグリゲーションコーディネーター」を目指している。

 VPPを推進するためにJERAは22年10月、米シリコンバレーのインタートラスト・テクノロジーズ社への出資を決定した。インタートラスト社はデータやデバイスを安全かつ効率的に管理するプラットフォームを提供する企業だ。米国内だけではなく独・韓国などのエネルギー企業へもプラットフォームを提供している。

 VPPでは、「電力=データ」となる。安定的な電力の供給には、高度なデータ分析・管理能力と情報セキュリティーの基盤が不可欠だ。

 JERA常務執行役員サミ・ベンジャマ氏はインタートラストとの提携の理由について、①顧客のデータ・オーナーシップを保持したまま、データを仮想化して活用することが可能、②IoT(モノのインターネット)、デバイスセンサーなどをセキュリティーを確保しながら共同開発できる──の2点を挙げる。これらを確保した「スタンダード・システム」を構築することにより、同社のVPP事業をパッケージとして海外にも輸出することが可能となる。

 インタートラスト社のタラル・シャムーンCEO(最高経営責任者)は「音楽の分野では、個人が音楽会社からカセットテープやCDを購入した時代から、ストリーミングによりクラウドでシェアする時代になっている。同じことがエネルギーにも起こる」と解説する。

「データで稼ぐ」モデルへ

 現在、エネルギー会社は、電力やガスなどの販売で収益を得ている。しかし、原料コストが事実上ゼロである太陽光や風力発電の価格低下が進めば、将来的には売電収入が減少する可能性がある。そのため、エネルギー会社は「データ会社」として、ビッグデータの分析、販売を収益の柱とする方向に動いていることも、VPPに参入する動機となっている。

 JERAはさらに、太陽光発電の大手であるウエストホールディングスと提携し、卸電力取引所のスポット市場への入札などにも取り組む。

 JERAの国内での取り組みは、現状ではまだ1日当たり80キロワット時~1メガワット時程度の小規模なものにとどまる。日本のEV普及がまだ遅れていることから、個人よりも企業が持つ緊急用蓄電池などを活用したシステムを構築中だ。現在は4カ所での展開だが、将来は数百カ所程度まで広げ、再エネの有効利用を目指す。またトヨタのEVを用いた取り組みも今後実現する予定だという。

 日本ではFIT(電力の固定価格買い取り制度)が終了し、FIP(一定の利幅を上乗せした変動価格での買い取り制度)が始まる。VPPが普及すれば、安価な夜間電力を蓄電して日中の電力需要ピーク時に放出することでより高い価格で売電を行うことも可能となる。東京都では25年から新規建築物に太陽光パネル設置が義務化されることから、VPPへの関心度が高まることになるだろう。

(土方細秩子・ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2023年4月11・18日号掲載

仮想発電所(VPP) JERAが国内で参入 再エネの導入を加速=土方細秩子

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