経済・企業 日本株まだ上がる

懲罰的円高からの解放 年末には日経平均4万円へ 武者陵司

1ドル=76円台まで円高が進んだ時期も(2011年8月)
1ドル=76円台まで円高が進んだ時期も(2011年8月)

 2022年2月に勃発したロシアによるウクライナ侵攻が、米国の中国に対する危機モードを一気に高めた。この結果、米国は日欧を中心とする友好国とのサプライチェーン(供給網)の再構築を急ぐようになった。同盟国である日本への期待はひときわ大きく、その恩恵を最も受ける。ドル・円レートに早くもその兆候が表れている。

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 米財務省は6月に公表した半期に1度の「為替報告書」で、日本だけを「為替操作監視対象」リストから外した。米国の対日貿易赤字が全く変わっていない中でのこの措置は、あからさまな対日優遇の表れとみられる。

 7月中旬、ドル・円レートは1ドル=140円前後で推移、6月末には政府・日銀から円安に歯止めをかけようと、「口先介入」する一幕もあったが、米国は静観する構えだ。

 インフレ抑制に苦戦する米国にとって、ドル高は国益である。多くの耐久財を輸入に依存する一方で、ハイテク製品やソフトウエアに関しては、米国企業の競争力が高いため、価格支配力が強いからドル高が有利に働く。他方、日本にとってもデフレから完全に脱却し、2%インフレを目指すには円安が望ましい。つまり、現在の円安・ドル高は日米双方にとって都合がいいわけだ。

円安時代の戦略に転換

 私は今回の円安を起点に、日本経済および日本株が大復活すると確信している。その理由を解説しよう。

 歴史的にみて、日米貿易摩擦が熾烈(しれつ)化した1980年代後半年以降、アベノミクスが始まる2013年までは、米国による懲罰的な円高政策に苦しめられ続けてきた。

 図1は、1ドル=360円の固定レートだった70年から現在までのドル・円レートと、購買力平価(消費者物価指数ベース、ある国の通貨建ての資金の購買力が、他の国でも等しい水準となるように、為替レートが決定するという考え方)で換算したドル・円レートの推移である。実際のドル・円レートは、通貨の実力を示すといえる購買力平価と比べて、12年までは、一貫して大幅な円高・ドル安だったことがわかる。

 戦後、日米同盟の下、安全保障は米国に任せ、復興と経済再建に専念できた日本経済は、1950年に起きた朝鮮戦争特需という追い風もあり、急成長を遂げた。安い円を武器に、自動車や電機、繊維製品などを経済大国の米国に大量に輸出。産業競争力をつけ対米貿易黒字を拡大させると、米国は日本を敵視し始める。日米貿易摩擦の解消に向けて、米国は日本に市場開放を求めると同時に、円高・ドル安政策で日本企業の競争力を削(そ)ぐ戦略に転換した。これが80年代半ば以降の「懲罰的円高」だ。

 80~90年代の猛烈な円高に、日本企業は生産拠点の海外移転で対応した。対外直接投資を増やし、資本の海外流出を加速させたのである。また、円高で割高となった労働コストの引き下げや雇用削減を継続的に実施。バブル崩壊以降、円高デフレが進むと、企業は債務削減に明け暮れた。これらは円高時代には、正しい戦略であった。

 しかし、23年以降は、円安時代に必要な戦略への転換が求められる。円高デフレ時代とは、逆の戦略だ。すなわち工場の国内回帰、賃上げや雇用拡大、企業の財務戦略は、高コストの株式から低コストの負債に切り替え、設備投資やM&A(企業の合併・買収)を積極的に行い、バランスシート(貸借対照表)を拡大させる戦略だ。

「Jカーブ効果」

 昨年後半以降、「悪い円安」が指摘された。円安が進み、高騰するエネルギーや食料の輸入価格をさらに押し上げ、家計の購買力を奪っているという批判だ。だが、足元の円安に対しては、そうした批判の声はあまり聞かれない。これは、円安になった当初は輸入価格が上昇し貿易収支の赤字が増えるが、その後、数量増効果が寄与して国内生産が増加、貿易収支が改善する、いわゆる「Jカーブ効果」が発生し始めているからだと考えられる。

 円安を追い風に、輸出企業は業績を大きく伸ばす一方で、インバウンド(訪日客)が期待される。業績が回復した企業は少子高齢化への対応として、人材確保に向けた賃上げをはじめとする待遇改善を急ぐ。所得増は消費…

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