マーケット・金融

中国の野望 EV軸に自動車輸出で世界一に 湯進

2030年までに化石燃料自動車の販売を廃止する中国(写真はBYDのEV)(Bloomberg)
2030年までに化石燃料自動車の販売を廃止する中国(写真はBYDのEV)(Bloomberg)

 米欧の警戒が強まるなか、中国がEV(電気自動車)と電池、部品を武器に東南アジア、中南米にも手を伸ばし始めている。

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 2023年7月8日、中国海運最大手の中遠海運集団傘下の自動車専用船会社「遠海汽車船公司」が、福建省のアモイ港で電気自動車(EV)を含む新車2600台を積み、欧州向け航路に出発した。同社は22年から自動車運搬船24隻を発注し、輸送力の拡張を急いでいた。中国の自動車輸出の拡大を受け、船腹需給が逼迫(ひっぱく)していたからだ。

 中国の自動車輸出台数は23年に400万台を超え、日本を抜き世界最大の自動車輸出国となる見通しだ(図1)。なかでも輸出を押し上げているEVやプラグインハイブリッド車(PHV)など新エネルギー車(NEV)の輸出は100万台を突破する勢い。23年1〜6月の世界のNEV販売台数の83%は中国と欧州製で占められ、そのうち中国が60%、23%が欧州だ。米国はまだ13%、日本は僅か1%に過ぎない。

欧米で強まる警戒

 中国がけん引する世界のEVシフトが自動車産業のパラダイムを変える可能性がある一方で、米国のインフレ抑制法(IRA)に代表されるように、EVの国産化に伴う部品・材料・希少資源の域内調達限定の動きや、サプライチェーンのブロック化の動きが加速している。米国では32年までに乗用車新車販売の67%をEVとし、北米で組み立てられたEVなどを購入する消費者に対し、最大で7500ドルを税額控除するIRAが22年に成立した。

 4月から新たに電池などにも条件が適用され、優遇対象のEVモデル数も減少した。日産自動車が米テネシー州で生産する「リーフ」が対象から外れた理由は、日産が20%出資し、中国企業が80%出資する電池大手のエンビジョンAESCから電池を調達しているからだ。IRAには供給網から中国を排除するため、24年以降の電池部品や25年以降の重要鉱物の調達から「懸念される外国の事業体(FEOC)」を外す規定がある。

 こうしたなか米ミシガン州に新設する米フォード・モーターの車載電池工場は、フォードが単独運営するものの、中国電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)が製造技術を提供し、生産体制構築も全面支援する。米中摩擦によるサプライチェーンの分断が顕在化し、中国産電池・材料の調達に厳しい制限が課されているが、米中双方は現実的な対応をとっている。

 欧州ではEVの購入補助金があり、自動車メーカーには20年から二酸化炭素(CO₂)の排出規制が導入され、規制値を達成できない場合は罰金が科される。各社のEVシフトが鮮明になるなか、欧州向けの中国の自動車輸出台数が22年に88万台となりEVが全体の55%を占めた。EVは販売価格が平均2.5万ドルとガソリン車の平均1.6万ドルに比べて高いにもかかわらず輸出台数が伸びている。

 中国製EVは現地の地図情報に対応するカーナビや多言語対応の自動音声認識機能も備えている。EVモデルがまだ少ない欧州メーカーの間隙(かんげき)を突く戦略が奏功しているわけだ。

 また、欧州の電池需要増を見据えて、中国大手電池メーカーが相次ぎ現地生産に踏み切った。CATLは23年1月、ドイツ中部のチューリンゲン州工場を本格稼働し、独BMWなど欧州メーカー向けに年間最大35万台分のEVの需要に対応する。ハンガリーで生産能力100ギガワット時(GWh)の新工場を建設し、欧州で第3工場の建設も視野に入れる。ドイツのフォルクスワーゲン(VW)が26%出資した中国大手電池の国軒高科、長城汽車系の蜂巣能源科技(SVOLT)もドイツ工場を建設しており、エンビジョンAESCはイギリス、フランス、スペインに電池工場の建設を計画している。

 しかし、電池工場誘致に積極的だった欧州でも中国への警戒感が強まっている。EVに搭載する電池の性能、材料の産出国やリサイクル率、生産履歴、CO₂排出量など、サプライチェーン全体の情報をデジタルで記録する「電池パスポート」導入が26年1月からEUで義務化されるからだ。中国企業が海外で所有する電池材料の鉱山では、労働条件や環境汚染などの問題が指摘されているだけに、中国の電池メーカーは対応に迫られる。

 米国や欧州事業の難しさが増していくなか、中国企業は、大胆なグローバル展開で中国EVの世界シェア拡大を進めようとしている。なかでも「日本車の牙城」といわれる東南アジア市場の切り崩しに攻勢をかけており、当面の主戦場は世界第10位の自動車生産国で東南アジア市場の輸出ハブとなるタイだ。

まずはタイに照準

 タイ政府は、30年までに新車生産の5割をEVにする目標で、24年以降に国内でEVを生産する自動車メーカーを対象に、EV購入時に最大15万バーツ(約60万円)の補助金を支給する一方、物品税と輸入関税の引き下げなど優遇策を打ち出している。これを受け、タイのEV登録台数が23年1〜6月に3万1738台、前年同期比約6倍となった。乗用車登録台数に占めるEV比率も前年の0.5%から7%に急…

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週刊エコノミスト

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