法務・税務

空き家放置は税加算 再生活用には助成金も(編集部)

「誰かが勝手に住み着いて、火事が起きたり犯罪の拠点に使われては絶対にいけない。万が一、近隣に迷惑をかけたら、というストレスが大きいですね……」

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 神奈川県に住む50代の男性が漏らす。男性は中国地方にある実家が昨年10月から空き家になり、その処分に苦心する。2軒の家屋に菜園と畑を含めて、土地の広さは約790平方メートル。1軒は大正期の建築で、もう1軒は築45年になる。長年一人暮らしをしていた高齢の母親を神奈川県に呼び寄せたことから、生まれ育った家が空き家になった。

 土地と築45年の家屋は母親名義で、曽祖父の名義のままだった大正期の家屋は母親名義に変更の手続き中だ。高齢のため自由に動くことができない母親に代わり、この男性が実家の処分を進めている。当初は賃貸に出す考えだったが、原則として賃貸が認められていない市街化調整区域にあることが分かった。そこで、地元の不動産業者と相談し、約800万円で売り出すことにした。

 ただ、「新しい方の家屋だけなら買いたい」との申し出はあるが、希望通り2軒まとめてという買い手は見つかっていない。実家のある県内に住む姉と交代で月に2回程度、実家に入り、換気や清掃をしているものの、交通費などもかさむうえに空き家管理の心配の種は尽きない。近隣の介護施設に入居した母親は認知症が始まり、進行を遅らせる治療費を捻出するためにも、早期に売却をまとめたいのが本音だ。

 全国で空き家が増加の一途をたどっている。国土交通省によると、1998年に全国182万戸だった「その他空き家」(住人が長期にわたって不在の空き家)の数は、18年には349万戸と20年間で1.9倍に増加。25年には420万戸、30年には470万戸へとさらに増加を続ける見通しで、既存の住宅に占めるその他空き家の比率は高知県の12.7%を筆頭に西日本で高い傾向にある(図)。

管理不全は「50万戸」

 いまや誰にでも降りかかる空き家問題。相続で取得したもののなかなか売れなかったり、資産価値はあっても他の相続人と遺産分割協議がまとまらなかったりして放置される空き家が後を絶たない。空き家が危険な状態となる前に手を打とうと、政府も本格的な対策に乗り出した。それが、今年6月に参院で可決・成立した改正空き家対策特別措置法だ。管理状態の悪い空き家に科すペナルティーの対象を広げたのだ。

 現行法では、倒壊の恐れが高いなど周囲に著しい悪影響を与える空き家を「特定空き家」と位置づけ、市区町村から勧告を受ければ固定資産税額は最大6倍(固定資産税の住宅用地特例を解除)となるペナルティーを科してきた。改正法では、放置すれば特定空き家となりうる空き家を「管理不全空き家」とし、同じく勧告を受ければ固定資産税額は最大6倍となるようにした。

 国交省は今年12月中の改正空き家対策特別措置法の施行に合わせ、どのような状態だと管理不全空き家に該当するのかを具体的に示すガイドラインの策定作業を進めている。今のところ、窓が一部でも割れていたり、害獣がすみ着いていたりするケースを想定しており、全国で50万戸程度が存在すると見積もる。特定空き家は約2万戸とされており、実にその25倍の規模となる。

借地権者の“ごみ屋敷”

埼玉県内の空き家。中は「ゴミ屋敷」状態
埼玉県内の空き家。中は「ゴミ屋敷」状態

 しかし、固定資産税の住宅用地特例が解除されるのは空き家が建つ土地に対してで、空き家と土地の所有者が同じとは限らない。東京都の30代の男性は今、管理状態が悪い空き家が建つ底地(借地権が付いている土地)を所有しており、管理不全空き家として住宅用地特例が解除されないか気が気でならない。いくら底地の所有者であっても、所有者が異なる空き家には手出しができないことにもどかしさを感じている。

 男性が底地を所有するのは、埼玉県内の住宅地。広さは約250平方メートルで、木造2階建ての家屋が建つ。庭木の枝が前面の道路や隣地へと覆いかぶさっている。男性は約5年前に投資目的で底地を取得したが、借地権者が2年前に亡くなった後、空き家になった。借地権者に子どもはおらず、相続人は借地権者の兄弟姉妹。男性は相続人に建物の管理を求めているものの、なかなか改善されないという。

 男性が相続人の代理人と一緒に建物の中へ入った際、遺品がまったく整理されず“ごみ屋敷”の状態になっていた。生い茂る庭木も誰がいつ植えたのかが判然とせず、勝手に切るわけにはいかない。男性は今、空き家の放置を防ごうと、借地権の買い取りを相続人に求めているが、交渉は思うように前進していない。男性は「もし固定資産税負担が増えれば、相続人に請求することも考えている」と話す。

千葉県香取市の「佐原の町並み地区」にあった空き家とビル。解体されて現在はコインパーキング(香取市提供)
千葉県香取市の「佐原の町並み地区」にあった空き家とビル。解体されて現在はコインパーキング(香取市提供)

 自治体側も空き家対策に乗り出している。その先頭を走るのが千葉県香取市だ。同市佐原には、利根川へと注ぐ小野川沿いに、江戸時代からの商家が建ち並ぶ。かつては水運で栄えた町並みは今、大勢の観光客でにぎわい、外国人の姿も珍しくない。しかし、つい最近までその一角に、荒れ果てた木造2階建てと鉄筋コンクリート造3階建ての建物が並んで2棟建っていた。現在はコインパーキングとなり、跡形もない。

 15年施行の空き家対策特措法では、特定空き家を自治体が強制的に取り壊す代執行の手続きも定めている。しかし、緊急性が高い場合には間に合わない。そこで、香取市では16年に別途、空き家に対処する条例を施行し、所有者に通知するのみで危険な空き家に必要最小限の措置(緊急安全措置)を取ることを可能に。この建物2棟に対して17年、緊急安全措置を適用し、木造の建物は解体した。

 鉄筋コンクリート造の建物には飛散防止ネットで覆うなどし、かかった費用は総額で約390万円。最終的には強制競売で回収し、落札者が20年までに鉄筋コンクリート造の建物も解体した。香取市は空き家対策特措法の行政代執行件数が21年度までの累計で8件、所有者が不明な場合の略式代執行の件数も9件と、いずれも市区町村でトップ。他に緊急安全措置も6件あり、その取り組みに他の自治体からの視察も相次ぐ。

>>伊藤友則・香取市長インタビューはこちら

平屋6戸を一体で再生

 ただ、空き家は取り壊すだけではコストも手間もかかる。カギとなるのが空き家の再生だ。国交相の諮問機関「社会資本整備審議会」の「空き家対策小委員会」で委員長代理を務めた横浜市立大学の斉藤広子教授は「空き家を魅力的に再生すれば、地域住民をつなぐ拠点になりうる」と指摘する。その具体例の一つが、横浜市南区で高齢者や子育て支援などに取り組むNPO法人「おもいやりカンパニー」の活動拠点だ。

 築約60年・木造2階建ての空き家を改装した「おもいやりハウス」のオープンは19年。NPO関係者が地域に空き家が増え始めたと感じる中で、空き家を活用する市の助成金を知った。市の助成金とクラウドファンディングで資金を集め、耐震補強を含む改修工事を実施。高齢者や子どもが集うスペース、駄菓子などを販売するコーナーなどを設けた。現在はカフェテリア設置の改修作業中で、9月の再オープンを目指している。

6軒の空き家を一体的にリノベーションした埼玉県宮代町の商業施設「ロッコ」。上が改修前、下が改修後(中村建設提供)
6軒の空き家を一体的にリノベーションした埼玉県宮代町の商業施設「ロッコ」。上が改修前、下が改修後(中村建設提供)

 空き家を全面的に改修して、見違えるように再生した先進的な事例が埼玉県宮代町にある。建ち並ぶ6軒の平屋の空き家を全面的にリノベーションして、昨年10月にオープンした小規模商業施設「ロッコ」。世界的なバリスタとして知られる畠山大輝氏が手掛けるカフェ、ビストロ、和菓子店、ヨーグルト店などがテナントとして入り、買い物客が引きも切らない。

 1970年に中村建設(宮代町)が建てていた借家を、21年に所有者から同社が買い取って着手。6戸とも同じ形なのを生かして統一感を出しながら、各戸に特徴も出るよう明るくリノベーションした。中村建設の事業担当者は、「地元でふらっと飲める場所や、集える場所が増えたらにぎわいを作り出せると考えた。今後も地元に根付いた場所にしていきたい」と答えた。

 地域で疎まれる存在から親しまれる場所に──。空き家問題への対応では、地域に魅力と活気を取り戻す自治体や住民、企業の底力も試される。

(浜田健太郎・編集部)

(和田肇・編集部)


週刊エコノミスト2023年8月29日号掲載

空き家&老朽マンション 放置すれば危険だらけ! 固定資産税の「6倍」拡大=浜田健太郎/和田肇

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