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米国の対中投資規制 関係を制御するバイデン政権 福谷周

バイデン政権は産業界との対話に力を入れている Bloomberg
バイデン政権は産業界との対話に力を入れている Bloomberg

 中国に対する投資規制策を打ち出しているバイデン政権。内容や経緯を詳しく見ると強硬策一本やりではない本音が見えてくる。

強硬姿勢でも両国経済への実質的影響は軽く

 米バイデン政権は2023年8月9日に投資規制に関する大統領令に署名した。大統領令に従い、財務長官は商務長官や他の関係行政機関の長と協議を行い、行政規則の策定を行うことになっている。同日、米財務省は規則提案の事前通知(ANPRM)を公表し、行政規則の策定作業が進行中で、米政府は24年中の対中投資規制(表)の施行を目指している。

 今回の投資規制は、米国人(米国市民、合法的永住権保持者、米国法人など)による特定分野の中国企業などへの新規投資を禁止し、または届け出義務(取引後30日以内の事後通知)を課すものである。現時点で検討されている規制対象は、半導体・マイクロエレクトロニクス、量子技術、AI(人工知能)の3分野となる見込みだ。

議会でも議論が白熱

 規制対象国は、中国、香港、マカオとしており、これまでの米国の対中輸出規制や対内投資審査を補完し、中国に対する機密技術などの流出を防ぐための施策の一環であるといえる。

 米国議会でも対外投資規制に関する議論が白熱している。21年5月に、民主党のボブ・ケーシー上院議員と共和党のジョン・コーニン上院議員が、国家の重要な能力に影響を及ぼす対外投資を監視・審査する組織を米国政府に設立する国家重要能力防衛法案(NCCDA)を上院に提出した。最終的には、民間企業からの反発が大きく、廃案となったが、これが対外投資規制の議論を加速させる大きなきっかけとなった。

 22年9月には、民主党のチャック・シューマー上院院内総務とナンシー・ペロシ下院議長(当時)らがバイデン大統領に対外投資を見直すための行政措置を求める書簡を送付しており、民主党内からも対中投資規制の強化の声がある。さらに、23年7月には上下院それぞれにおいて24年度国防権限法(NDAA)が可決されているが、上院版には対外投資の情報開示を求める法案が付帯されている。

 このように議会では対中投資規制に対する超党派の支持がある一方、米下院中国特別委員会のマイク・ギャラガー委員長(共和党)のような対中強硬派からは、対中投資規制の対象分野を拡充すべきとの批判も一定数存在し、今後も米国内の議論の行方から目が離せない状況がしばらく続きそうだ。

 バイデン政権の対中投資規制の狙いはいったいどこにあるのか。米国の対中投資の現状をみてみると、近年、米国における対中直接投資残高はおおむね1200億ドル(約18兆円)付近で推移しており、それほど増えていない(図)。セクター別にみても、輸送用機械、化学、卸売業、金融・保険などが主なもので、今回の規制対象である先端技術分野への投資は極めて限定的であるといえるだろう。

対話通じ関係維持模索

 バイデン政権は産業界と…

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