法務・税務 相続税 必見対策

相続時精算課税で大きく節税 財産額や相続人数に応じて暦年課税贈与と使い分け 河合厚

 相続時に贈与額を加算する相続時精算課税制度と、贈与額に応じて毎年申告する暦年課税贈与は、どちらが有利なのかを検証した。

>>特集「相続税 必見対策」はこちら

 2023年度の税制改正で、相続時精算課税制度による生前贈与(相続時精算課税贈与)にも年110万円の基礎控除が認められることになった。来年1月1日以降の贈与から適用される。相続時精算課税制度は節税効果が少なく、贈与のたびに申告が必要など使い勝手が悪かったが、利用検討余地が大きく広がった。

 生前贈与には大きく二つの方法がある。一つは暦年課税贈与で、贈与額に応じて毎年、申告・納税する。贈与額が多くなれば税率も高くなる(10〜55%)。ただし、年110万円の基礎控除があり、基礎控除の範囲内の贈与であれば申告・納税の必要はない。相続税との税率の差を利用するなどして、毎年一定額を子や孫に贈与し、贈与者の死亡(相続発生)時の相続財産や相続税額を引き下げる手段として使われてきた。

 もう一つが相続時精算課税贈与で、特別控除の累計2500万円までは贈与時には贈与税を納めず、相続発生時に相続財産に贈与額を加算して相続税額を算出する。なお、贈与の累計額が特別控除額を超えた場合、超えた部分に対して一律20%の贈与税が課税される。納めた贈与税は相続税額から差し引き、贈与税額が相続税額より多い場合には還付される。

 相続時精算課税制度のメリットの一つに、一括の贈与でも特別控除の2500万円までは贈与時に贈与税がかからないことが挙げられる。暦年課税贈与では子に2500万円を一括で贈与すると、45%と高い贈与税率が課せられる。特別控除を超える贈与への贈与税率が一律20%なのも、暦年課税贈与の税率と比較した場合、贈与額によっては低い税率で財産を移転できるメリットがある。

 また、相続時精算課税制度では、価格上昇が見込まれる不動産や上場見込み株などの有価証券の贈与でも、節税の効果が期待できる。相続時精算課税制度では贈与時の評価額で相続財産に加算するため、相続発生時より贈与時の評価額が下回っていれば、低い評価額によって財産を移転できる。また、生前にまとまった規模の財産を贈与して所有権を移転できるため、相続時に相続人の間で起きる紛争を防ぐ効果もある。

撤回できないデメリット

 しかし、相続時精算課税贈与にはデメリットもある。まず、対象となるのは原則として60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子や孫への贈与のみで、配偶者やおい、めい、友人などへの贈与では認められない。なお、相続時精算課税贈与を使う場合は税務署へ届け出が必要になるが、一度届け出れば撤回できず、途中で暦年課税贈与に戻すことはできない。

 また、財産規模が大きい人などの場合、生前贈与を毎年のように続けることで、相続発生時の財産を減らす節税策には不向きなことも挙げられる。相続時精算課税贈与では相続発生時には結局、贈与した財産を相続財産に加えて相続税を計算するため、毎年のように生前贈与を続ける場合は、贈与税を納めてでも暦年課税贈与を活用する方が節税効果は大きくなる。

 さらに、相続時精算課税贈与…

残り1468文字(全文2768文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

5月14日・21日合併号

ストップ!人口半減16 「自立持続可能」は全国65自治体 個性伸ばす「開成町」「忍野村」■荒木涼子/村田晋一郎19 地方の活路 カギは「多極集住」と高品質観光業 「よそ者・若者・ばか者」を生かせ■冨山和彦20 「人口減」のウソを斬る 地方消失の真因は若年女性の流出■天野馨南子25 労働力不足 203 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事