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初の承認事例も!「相続土地国庫帰属制度」の使い勝手と注意点 荒井達也

使わない土地は草刈りなど管理も大変……goro/PIXTA
使わない土地は草刈りなど管理も大変……goro/PIXTA

 遠方の実家の土地を相続し、管理に困る人は少なくない。4月にできたばかりの「相続土地国庫帰属制度」の利用も選択肢となる。

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 相続した不要な土地を一定の要件の下で国に引き取らせる「相続土地国庫帰属制度」の運用が今年4月から始まった。そして、約5カ月後の9月下旬、ついに初となる承認事例が現れた。法務省によれば、富山県内の土地2筆が9月22、25日に国に引き取られたという。全国の申請件数は8月末までの約4カ月間で885件に上っており、本制度の審査期間がおおむね6カ月〜1年程度とされる点を踏まえると、今後、国への引き取りが認められる土地が続々と出てくるものと思われる。

 これまでは相続した不動産(田畑、山林、実家の土地など)の中に不要な土地があっても、その土地を放棄したり自治体に寄付したりすることは法的に難しいといわれていた。なお従来、民法で相続放棄が定められているが、相続放棄の場合は優良な資産(預貯金など)も一切相続することができなくなるため、使い勝手が悪かった。これに対して、相続土地国庫帰属制度を利用すれば、相続した不要な土地だけを一定の条件下で国に引き渡すことができる。

 ただし、相続土地国庫帰属制度で土地を国に引き取ってもらうためには、国が定めた条件をクリアする必要がある。引き取りの条件は、主にヒト(申請資格)、モノ(土地の要件)、カネ(費用)の三つの観点から、それぞれ定められている。

 まず、ヒトの申請資格に関する要件として、相続土地国庫帰属制度を利用できるのは、相続や遺言で土地を受け取った相続人に限られている。相続人であっても、相続以外の理由(生前贈与や信託など)で土地を受け取っている場合は、申請資格が認められない点に注意が必要である。

 次に、モノの土地に関する要件として、管理や処分に多大な費用や労力を要する土地は引き取りの対象外とされている。建物がある土地、土壌汚染がある土地、災害などの危険がある土地や賦課金が発生する土地改良区内の農地など、10のケースが該当する(表1)。

手数料、負担金が必要

 カネの観点からは、相続土地国庫帰属制度を利用する際の費用として、国に一定の手数料を支払う必要がある。まず、申請の際には1筆1万4000円の審査手数料を納めなければならない。この審査手数料は、申請が却下された場合にも返金されない。そのため、申請前に引き取りの見込みについて十分検討しておく必要がある。

 次に、国の審査で引き取りが承認された際は、10年分の管理費(法律上は「負担金」という)を納付する必要がある。この負担金は原則20万円だが、宅地、農地、山林については、一定の場合、面積に応じて負担金が増額される場合がある(表2)。

 これらを踏まえ、制度の利用を希望する相続人は法務局に申請する。申請の際は、所定の申請書に加え、主に①印鑑証明書、②土地の形や位置関係が分かる図面、③現地写真、④隣地との境界点が分かる写真──も提出する必要がある。申請が受理された後は法務局で書面審査が行われ、その後、現地調査も行われる。審査が完了して問題がなければ、負担金を納めて正式に国が引き取ることになる。

 これまで土地は資産と考えられてきたが、この制度では土地を手放すために決して安くない費用を負担する必要がある。それでも、この制度を利用したいと考える相続人は少なくない。法務省によれば、申請の動機として、①遠方に所在するため利用の見込みがない、②処分したいが買い手が見つからない、③子孫に相続問題を引き継がせたくないので権利関係を整理したい──といった理由を挙げる人が多いようだ。

 筆者も土地を手放したい人から多数の相談を受けているが、土地所有者から「地元を離れたとはいえ自分が育った土地だから、自分自身が管理する分には仕方がないと思う。しかし、地縁がない子どもたちに相続させるのは忍びない」といった声をよく聞く。また、土地の管理不全によって近隣に損害を与えれば、賠償の責任を負うことも動機の一つになっている。

引き取られやすい農地

 とりわけ、価格が低かったり利用価値が見込めなかったりする地方の山林や農地となれば、地域の不動産会社にとっても採算が取りづらく、仲介などの協力を得られないケースは珍しくない。こうした土地の処分で八方塞がりに感じる土地所有者は少なくなく、法務省によれば実際、国庫帰属制度を申請した土地の種目別の内訳では田・畑が約4割、山林が約2割を占めているという(宅地は約3割)。

 相続土地国庫帰属制度の申請は、必ずしも複雑な手続きではないが、引き取りの見込みの判断や書類の準備に当たっては、法律や不動産の専門知識が必要になる。実際、筆者が遠方に農地を所有する相続人から制度申請の相談を受けた際、この農地に賦課金がかかっていて土地の要件を満たさないことが相談開始から5分で判明した。この相続人は膨大な時間をかけて自ら申請準備を重ねていたが、それまでの努力が無駄になってしまった。国庫帰属制度を利用しようと思う場合は、法務局や専門家に相談することが重要だ。

 先の事例では賦課金がかかって要件を満たさなかったが、筆者が制度の利用を勧めている土地として農地がある。農地は農地法により地元の農家以外への売却が難しく、農家の高齢化によって引き取り手もいないため、なかなか手放すことができなかった。ただ、農地は建物が建っていたり、残置物・地下埋設物があったりすることは比較的に少なく、相続土地国庫帰属制度で引き取りの対象外となる要件に引っかかりにくい。

 実際に、法務省が制度設計する際に行った19年度の委託調査結果によると、宅地、山林、農地のうち「土地の所有権について争いがない」など引き取りの要件を満たす割合が最も高かったのが農地だった。特に農地の活用や処分で困っている場合は、相続土地国庫帰属制度の利用は検討に値する。

(荒井達也・荒井法律事務所、弁護士)


週刊エコノミスト2023年11月14日号掲載

相続税必見対策 初の承認事例も! 相続した不要土地を国庫へ 新制度の使い勝手と注意点=荒井達也

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