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マンション節税もう無理! マンション相続税評価額見直しの衝撃 桐山友一/村田晋一郎

相続税評価方法の見直しは3階建て以上のすべての区分所有マンションに影響する……Bloomberg
相続税評価方法の見直しは3階建て以上のすべての区分所有マンションに影響する……Bloomberg

 相続税の節税策として利用が広がるマンション。物件の購入価格に比べて相続税評価額が低くなりやすいことを利用する手法で、特にタワーマンションではその傾向が顕著なため、富裕層がこぞってタワマンを買い求める一因にもなっていた。しかし、そうしたマンションの相続税評価額が来年1月1日から見直される。タワマンだけでなく、多くのマンションで相続税評価額が引き上がる見込みだ。

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 マンションの相続税評価額の算出方法は、国税庁の「財産評価基本通達」で定められているが、国税庁がマンションの評価方法を見直すきっかけになったのが、昨年4月の最高裁判決だ。相続したマンションの評価方法などをめぐって納税者と国税側が争った訴訟で、結果として過度な節税策を否認した国税側の主張が認められたものの、納税者が申告の際に用いた通達通りの相続税評価額は、マンション2棟の購入額の4分の1以下にしかすぎなかったことが火種となった。

 そこで、国税庁は今年1月以降、マンションの相続税評価額の見直しについて3回にわたる有識者会議を開き、9月28日に新しい評価方法を発表。マンションの①築年数、②総階数、③部屋の所在階、④部屋の敷地持ち分狭小度──という四つの指標から、マンションの市場価格と相続税評価額の乖離(かいり)率を試算したうえで、相続税評価額が市場価格の0.6倍未満と考えられる場合、相続税評価額を0.6倍以上へ引き上げる仕組みを導入する。

「立地の良さ」を加味

 評価乖離率の具体的な計算式は図1(拡大はこちら)の通りで、立地の良い場所に建つ築年数の浅い高層マンションの高層階ほど、乖離率が大きくなるように係数が設定されている。そのうえで、評価乖離率の逆数(評価水準)が0.6倍未満の場合は、相続税評価額に「評価乖離率×0.6」を掛け、相続税評価額を引き上げるよう補正する。この計算式は年内には国税庁のホームページにエクセルファイルが掲載され、誰でも入力して計算できるようになる。

 国税庁はこの評価乖離率の計算式を作り出す際、調べ上げたのが2018年の中古マンションの譲渡所得税の申告書だ。申告書に基づく2478件の売買事例を、マンションの専有部分の面積などが記載されている不動産移転登記情報と結びつけたうえで、相続税評価額を算出して申告書の売買価格との乖離率や乖離する要因を検証した。その結果、浮かび上がってきたのが四つの指標だ。

 国税庁は特に、④の敷地持ち分狭小度について、マンションの立地条件が現れる指標として重視する。敷地持ち分狭小度はマンションの敷地利用権の面積を専有面積で割ったもので、敷地持ち分狭小度の値が小さくなるほど、その土地の価値が高くなる(立地条件がいい)と考える。立地条件がいいからこそ、より高層のマンションが建てられ、敷地持ち分は相対的に小さくなる一方、高い市場価格で取引されると想定するからだ。

 そもそも、現行のマンションの相続税評価額が市場価格に比べて低くなりやすいのは、土地や建物の相続税評価額の評価方法にある。原則としてマンション敷地(土地)は路線価で、建物は固定資産税評価額で評価し、それぞれの評価額を合算するが、土地は持ち分の割合を掛けるため、総戸数が多いマンションほど1戸当たりの評価額は小さくなる。

半額以下の物件は65%

 また、建物の固定資産税評価額は、面積が同じであれば低層階でも高層階でも同じになるが、眺望の良さなどにより高層階ほど市場価格は高額となる傾向がある。その結果、総戸数の多い高層階のマンションほど、市場価格に比べて相対的に相続税評価額は低くなるため、富裕層の間で高額なタワマンの高層階を相続税対策として購入する“タワマン節税”が広がっていた。

 ベンチャーサポート相続税理士法人(東京)の古尾谷裕昭代表税理士が「(今回の通達改正の)インパクトは大きい」と語るように、マンション購入による節税対策を考えていた富裕層は見直しが必要になる。また、節税対策を勧めていた銀行や不動産業界にも余波は及んでいるようで、古尾谷氏のところにも銀行などから税制改正の影響について問い合わせや相談が増えているという。

 ただ、今回の相続税評価の見直しは、タワマンだけでなく幅広いマンションに影響する。見直しの対象となるのは3階建て以上の区分所有マンションで、国税庁の調査によればマンションのうち65%は相続税評価額が市場価格の半額(0.5倍)以下だった(図2)。国税庁は今後、市場価格の動向も踏まえ、評価乖離率の係数などを3年に1度程度の頻度で見直す方向で検討している。

 自分の財産額では相続税は関係ないと思っていても、マンションを所有している場合は今後、評価額の見直しによって思わぬ税負担が発生するかもしれない。落とし穴にはまらないよう、事前に備えておくことが必要だ。

(桐山友一・編集部)

(村田晋一郎・編集部)


週刊エコノミスト2023年11月14日号掲載

相続税必見対策 “タワマン節税”だけじゃない! マンション評価見直しの衝撃=桐山友一/村田晋一郎

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