教養・歴史書評

米エール大学で超人気の「シンキング」講義を書籍化 孫崎享

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 私は1985年度、ハーバード大学の国際問題研究所にいて、いくつかの講義を聴講した。ナイ教授の講義は後に著書『国際紛争』になり、ハンチントン教授の講義は後、『文明の衝突』になった。ハーバード大学の授業料は年間5万9076ドルで、同じくアイビーリーグのエール大学の授業料は6万4700ドルであった。私たちは普段、こうした大学の講義を聴くことはまずない。だが本は講義を反映する。これらの大学教授の著書を読むことは、講義を聴講することに等しい。

 アン・ウーキョン著『イェール大学集中講義 思考の穴 わかっていても間違える全人類のための思考法』が出版された(ダイヤモンド社、花塚恵訳、1760円)。この本はエール大学で450席を有する最も大きな講堂で行われる超人気の「シンキング」の講義を基礎とする。「シンキング」とは、著者の説明によれば、思考の不具合によって起きる個々人の生活や社会経済的な問題に対し、心理学が問題の認識や対処にどう役立つかを教えるものだ。彼女はエール大学の心理学教授となって「人を惑わせるさまざまなバイアスについて調べ、さらにはそうしたバイアスを正す方法を考案してきた」。それがこの著書の主要テーマである。

 本の小項目を見てみよう。「自分が正しい」と思える証拠ばかり集めてしまう。「最初の考え」に固執しているから間違える。原因と結果は「似ているはず」と思ってしまう。「小さな原因から大きな結果が生まれる」ことがわからない。ひとつわかると、ほかの可能性を「除外」してしまう。「サンプル数」があまりに少ないのに、誤解してしまう……。これら小項目を並べただけでも、興味深い本であることがわかる。

 だがこの本を手にする人に一つだけ忠告がある。この本は学者の本である。第1章では「流暢性効果」とか「メタ認知」「ヒューリスティック」などの専門用語がたくさん出てくるが、これらはひとまず読み飛ば…

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