教養・歴史 クラシック

音楽ファンに至福の時間 3大オーケストラ聴き比べ 梅津時比古

ファビオ・ルイージ指揮によるロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (c)Julian Breen
ファビオ・ルイージ指揮によるロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (c)Julian Breen

 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団。クラシックの本場、ヨーロッパの「3大オーケストラ」が2023年11月、日本に集結し、バブル期さながらの活況を呈した。

来日ラッシュにバブル期とは違う文化的思いを読む

 2023年11月、最初に来日したのはコンセルトヘボウ。なぜ「3大オーケストラ」にコンセルトヘボウがランクインするのか? たとえばパリ管弦楽団、あるいはロンドン交響楽団ではないのか、という声もあるだろう。日本では大正・昭和初期のSPレコード時代、一世を風靡(ふうび)した音楽評論家・あらえびすによってコンセルトヘボウは「世界一」とまで言われた。メンゲルベルク、モントゥーなど名指揮者がコンセルトヘボウと共に名盤を作ったことが大きい。メンゲルベルクのチャイコフスキー《悲愴》は「聴かなければならない」筆頭にあげられた。

 今回の指揮者、ファビオ・ルイージも、楽団のマネージング・ディレクターもそこは十分に意識し「日本の聴衆がいかに大切か」を口にする。事実、11月7日、東京・サントリーホールで行われた公演は気合いの入ったものであった。

ホルンに魅せられる

 先の音楽評論家・あらえびすが絶賛したのはコンセルトヘボウの弦楽器の魅力。とりわけメンゲルベルクの訴え掛けるようなポルタメント(指を滑らせて音程をなめらかにつなぐ)奏法はコンセルトヘボウの持ち味になった。しかし今回、指揮のルイージが聴衆に注目させたのは管、とりわけホルン。1曲目、ウェーバー《オペラ「オベロン」序曲》は冒頭、ホルンのソロから始まる。コンセルトヘボウ首席ホルン奏者、ケイティ・ウーリー(女性)のやわらかく甘美で、きめこまやかなホルンの響きに、会場は息をのんだ。つられたように奏でられるヴァイオリンの弱音も、このオーケストラを歴史的に形作ってきた弦のやわらかい魅力が生きている。続いてブロンフマンを独奏に迎えてリスト《ピアノ協奏曲第2番イ長調》。オーケストラとピアノが分離せずに一体となり、全体が溶け合う。

 メインはチャイコフスキー《交響曲第5番ホ短調》。出だしを、ほの暗くゆっくりと粘らせ、クライマックスの激しい炸裂(さくれつ)と対照の劇を作り上げる。ここでも第2楽章のホルンが美しく繊細を極める。このホルンにいかに聴衆が驚嘆したことか! 演奏後に立った彼女に大拍手が集中した。

 2組目はウィーン・フィル。不思議なことに、ウィーン・フィルがサントリーホールの舞台に上がると、サントリーホールが彼らのウィーンの本拠地、ウィーン楽友協会ホールに見える。世界最高といわれる楽友協会ホールと同じほどの音響の良さをサントリーホールが持っていることでもあろう。1956年の初来日以来38回目の来日を数えるウィーン・フィルはその半分以上、サントリーホールで演奏しており、フロシャウ…

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