マーケット・金融復活するインフレと金利

インタビュー①「賃上げと価格転嫁の循環が始まった」佐々木融・ふくおかフィナンシャルグループチーフストラテジスト

 バブル崩壊以降、三十数年ぶりのインフレと金利がある世界を迎えようとしている。それは金融市場や実体経済にどんな影響を及ぼすのか。専門家に聞く。第1回目は、ふくおかフィナンシャルグループの佐々木融チーフストラテジスト。(聞き手=浜條元保・編集部)

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── 消費者物価(除く生鮮食品=コアCPI)の上昇率は日銀が目標とする2%を1年半以上も超えている。日本にもインフレ(物価上昇)が定着しつつある?

■2%程度のインフレは今後続き、デフレには戻らないだろう。理由は二つある。まず人手不足だ。賃金を上げなければ、企業は人材を確保できなくなっている。今の10代の人口は50代の約6割しかいない。少子化が労働市場に影響を与え始めており、今後人手不足はさらに進む。加えて海外との賃金格差がつきすぎた。賃上げをしなければ、優秀な人材は海外に出て行ってしまう。従って賃上げをせざるを得ない。上昇した人件費を製品やサービス価格に転嫁しないと事業が成り立たなくなる。この動きがインフレの定着をもたらす。

 2点目は日銀による事実上の財政ファイナンス(財政資金の穴埋め)だ。財政ファイナンスはなぜやってはいけないかというと、インフレになるからではなく、やめられなくなるからだ。政府は今年度も13兆円もの補正予算を組んだ。こうした拡張的な財政運営を続けられるのは、日銀が財政ファイナンスしているからだ。コアCPIが4%を超える状況で、日銀がマイナス金利や長期金利を0%に誘導するYCC(長短金利操作)を続けている結果、実質金利(名目金利−期待インフレ率)は大幅なマイナスになっている。だから株価や不動産など資産価格は上昇する。しかし、その一方で現預金は目減りしている。いわゆるインフレタックス(税)が始まっているということだ。

── 2013年4月から日銀の黒田東彦前総裁による異次元緩和が始まる前まで、つまり白川方明総裁時代は、1ドル=70~80円台というすさまじい円高が進んだ。日銀は金融緩和に消極的だと大きな批判を浴びた。

■量的緩和については、実務的には何の意味があるのか疑問だったが、当時「過度な円高の是正や脱デフレには強力な金融緩和が必要だ」「やってみなければわからない」という政治的あるいは世論の緩和要請のようなものがあった。現実に異次元緩和が始まると、円安が進み株価が上昇した。実態は対外直接投資の急増や、それまでの貿易赤字でたまりにたまった円安方向のマグマが一気に表面化しただけだったが、その時点で異次元緩和を批判して、やめることは難しかった。

今年は1ドル=160円も

 しかし、どこかのタイミングで日銀は「金融政策だけで日本経済の長期停滞を解決できない」と、説明すべきだった。アベノミクス3本の矢には異次元緩和のほかに、財政政策と構造改革があったのだから、その後すぐにでも構造改革に重点的に取り組んで経済を活性化させる方向にかじを切るべきだったが、それはいま現在もできていない。

 黒田前総裁下の日銀が犯したミスは、金融政策だけでどうにかできると国民に思わせ続けたことだ。マイナス金利の導入を決めた16年1月以降、長期金利が下がりすぎたため、同年9月にYCCを採用して金利を押し上げるという無理な政策対応をとったあたりで、この政策はおかしいと議論すべきだった。長年、金融市場と向き合ってきた私自身も反省している。

── 22年以降、続いたドル高・円安が24年には反転するという予想が多い。

■私は足元の1ドル=140円程度が、ドル安・円高のボトム(底)で、24年は160円程度まで円…

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