マーケット・金融復活するインフレと金利

インタビュー②「個人マネーの流れが大きく変わる」 大槻奈那

 インフレに伴う現預金の目減りを人々が実感し始めた。保守的とされた日本人だが、政府による「貯蓄から投資へ」の大号令のもと、新NISA(少額投資非課税制度)がそれを後押しする。金融市場に精通する大槻奈那氏に聞いた。(聞き手=浜條元保・編集部)

>>連載「復活するインフレと金利」はこちら

── 日銀が目指す2%インフレは定着するか。

■2%が持続するのは難しいかもしれない。しかし、足元のような経済成長や金融環境が続けば、1%を超えて推移する可能性はある。少なくとも過去のデフレに戻ることは、大きな経済・金融ショックがない限り可能性は低いだろう。日銀のアンケートで、「5年後の物価が上昇すると考える理由」をみると、「中長期的に物価は上がるものだから」という回答が、昨年12月時点で30%超に達する。つまり約3割の人は以前の「物価は下がるもの」から「上がるもの」に変わってきているということだ。物価は上がらないという従来のノルム(社会規範)から上がるという新しいノルムに転換しつつあることを日銀もこのアンケートで確認しているのではないか。

── きっかけは、2020年春の新型コロナのパンデミック(世界的流行)による世界的なインフレショックだった?

■加えて、22年2月に始まったウクライナ戦争だ。エネルギー価格上昇に伴う輸入物価の上昇を人々は目の当たりにした。国際通貨基金(IMF)の長期インフレ予想で、日本はコロナ前(約0.5%)より大幅に高い1.6%程度で推移するとしている。

── 企業の価格設定行動にも変化が見られる?

■企業は価格を上げたいが、人々のデフレマインドの前に値上げを我慢してきた。そのノルムから解き放たれたのなら、自然に上がっていくのだと思う。実際、企業の価格設定行動が変わりつつある。

 日銀がいう物価を押し上げる「第二の力」に含まれる企業の価格設定行動の変化は、環境という面からは見え始めているが、賃金の側面からはまだ確信が持てない状況だろう。ただ、それはやむを得ない面もある。昨年の春闘は3%台半ばと最近に例を見ない上げ幅となったものの、実際の賃金に反映されるのは昨年6月ごろからだったはず。賃上げがインフレにつながるルートをデータで裏付けるのはこれからの作業になる。

マイナス金利解除は4月

── 継続的な賃上げに必要なものは?

■生産性の向上が最大のポイント。足元の潜在成長率は0.7%だが、00年代初頭の1.1%程度までは改善できる可能性はある。企業の間に小規模なイノベーションが実現し、スタートアップ支援策、行財政、規制改革の効果がジワリと出始めている。ただし、もっとも影響が大きかったのはコロナショックだったのではないか。DX(デジタルトランスフォーメーション)が先進国の中でも遅れていた日本が強制的にリモートワークなどに取り組まざるを得なくなった。遅れていた分、その効果が大きかった。…

残り1888文字(全文3088文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事