教養・歴史書評

古代から近世末に及ぶ陰陽道史の近来に例を見ない好著 今谷明

 陰陽道(おんみょうどう)は、大陸渡来の卜占(ぼくせん)(占い)の技術である。古墳時代後期には百済(くだら)経由で日本に伝来しており、壬申(じんしん)の乱(672年)の際、大海人皇子(おおあまのおうじ)が式(ちょく)という用具を使って伊賀の黒雲から戦況を占ったと伝えられる。

 平安時代には、宮中に陰陽寮なる官庁が設けられ、神祇(じんぎ)官の役人と共に天文や怪異を占った。安倍晴明(あべのせいめい)のごときはこの陰陽寮の最高の官人であった。評者らの若い頃は晴明は“魔法使い”の親分のようで、“式神”(陰陽師の命令で動く従者)を駆使して妖魔を退散させる超人のように見られていた。戦後、歴史学は人間の合理的行動を前提としていたので、卜占などは学問の対象とされなかったから、晴明伝説なども多くは民俗学者により叙述されていた。

 今回紹介する斎藤英喜著『陰陽師たちの日本史』(角川新書、1056円)は、本格的な歴史学畑の著者によって叙述・展開された古代より近世末に及ぶ陰陽道史の通説であり、新書としては近来に例を見ない好著である。教えられる点は多かったが、ことに開眼させられたのは、学界で陰陽道史が復活してくる時期と経路である。1970年代以降の反近代主義、80年代後半のポストモダンの思想状況の中で、柳田国男や折口信夫が再評価されてくるといった点で、なるほどと納得させられた。

 晴明伝説の表裏や虚実も詳細に検討…

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週刊エコノミスト

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