教養・歴史書評

過去を書くという「認識行為=歴史」の歴史がまた面白い 加藤徹

 今から2000年以上前、歴史家の司馬遷は、自分が生きた前漢の武帝の時代を書くため、太古にさかのぼって筆を起こし歴史書『史記』を書いた。江戸時代の頼山陽も、昭和の戦争を生き延びた司馬遼太郎や陳舜臣も、司馬遷にならい、自分がいだく「近現代」への熱い思いを歴史文学として書き残した。

 現在の政治や社会への問題意識から過去を議論し、過去から現在の問題を見いだす。そんな歴史書の伝統は、いつ、どのようにできたのか。佐藤信弥『古代中国王朝史の誕生 歴史はどう記述されてきたか』(ちくま新書、1056円)は、中国古代史の専門家である著者が、「歴史」の歴史を解き明かす快著だ。

 現存最古の中国の文字記録は3000年以上前の、亀の甲羅や動物の骨(まれに人間の頭蓋骨(ずがいこつ)!)に刻まれた甲骨文と、青銅器に鋳込まれた金文である。著者は、甲骨文や金文の具体例を紹介する。現代人は、出土品の文字記録を見ると、歴史的事実を書いた同時代史料だと思い込む。だが著者は、これらは当時の人々の歴史認識を知るための史料として考えた方がよい、と論理的に説明する。

 竹や木の細長い板をつなげた竹簡や木簡、絹の布なども、大昔から書写材料として使われていたが、土の中で腐るため、残りにくい。木簡、竹簡、布に書かれた文字記録で現在発見されている最古のものは、戦国時代(前5世紀~前3世紀)のものだ。歴史書を含め最初の「書籍」が登場するのも…

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