教養・歴史書評

自立外交のためにも国内政治の「戦後」を終わらせよ 井上寿一

 日本現代史に関連する二つの著作を紹介する。どちらもおいそれとは手を出せない。700ページ前後の大部である。価格も1万円に近い。本欄で取り上げることに躊躇(ちゅうちょ)がなくもない。それでも重要な主題に対する包括的な議論を展開する著作なので、取り上げることにする。

 一つは松浦正孝編著『「戦後日本」とは何だったのか 時期・境界・物語の政治経済史』(ミネルヴァ書房、9350円)である。日本の「戦後」はいつ終わったのか、あるいはまだ終わっていないのか。日本が次の戦争の当事国にでもなれば、「戦後」はいやが応でも終わる。幸いにも今のところ日本は戦争の直接の当事国にはなっていない。このことは他方で議論を複雑にする。24人の著者による「戦後日本」の総合的な共著の本書も、共通の見解を示していない。個別のテーマによっては「戦後」はすでに終わった、あるいはまだ終わっていないということの反映だろう。

 全体をとおして、自民党優位の政治が続く限り「戦後」は終わらず、しかし1970年前後に「戦後処理」を終えた日本外交の「戦後」は終わったとの指摘に示唆を受けた。要するにポスト戦後外交を展開しなければならないのに、外交の国内基盤の「戦後」が終わっていないのである。ここに「戦後」政治を終わらせることの重要性が示されている。

 もう一つは潘亮著『日本の国連外交 戦前から現代まで』(名古屋大学出版会、9900円)である。…

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