教養・歴史

絵本「で」哲学――絵本から何を受け止め、どう考えるか 小川仁志

 ふとした機会に絵本を読むと、ハッとさせられます。きっとそれが、大人が絵本を読む意味なのでしょう。もちろん絵本は子どものために描かれています。だから情報量が少なく、かつそこを補うために絵が掲載されているわけです。そうして必然的に絵本は抽象的になります。

>>特集「絵本のチカラ」はこちら

 ところが、その抽象性ゆえに、子どもだけでなく大人が読んでも、考えさせられる余地が大きくなるのです。とりわけ大人は自分の人生経験も踏まえて、その抽象性のキャンバスを埋めようとします。その結果、同じテーマを扱った大人向けの本を読んだ時以上に、強い影響を受けることがあるのです。

 子どもに読み聞かせをしていたのに、大人の方が感動しているという話はよくあります。そう、大人も子どもも同じストーリー、同じテーマを共有できるのも絵本のいいところです。今私はここで、絵本「を」哲学しているのですが、その利点を生かして、絵本「で」哲学してみることをお勧めしたいと思います。

 戦争やパンデミック、災害など、大人も子どももともに考えなければならないテーマがあふれかえる時代だからこそ、それに適した絵本を選ぶといいでしょう。たとえば、『モモ』で有名なドイツの作家ミヒャエル・エンデの絵本作品『哲学するゾウ フィレモンシワシワ』は戦争を考えるのにうってつけです。

 他の生き物と競争して勝つことに躍起になっているハエたちが、ゾウのシワシワに勝負を挑む話です。でも、シワシワはそんな競争には気づきもせず、ずっと月のことを考えていたのです。自分なんかよりもはるかに大きな存在である月のことを。

 もしかしたら誰もが競争するのをやめて、大きな存在について考え始めたら戦争はなくなるかもしれません。そのために日ごろから哲学をすることに意義があるように思えてなりません。

 では、すでに起こってしまった戦争やパンデミック、災害に対して、私たちは何ができるでしょうか? そこで最近私が出会った絵本『ちいさなハチドリのちいさないってき』をご紹介したいと思います。

ハチドリの懸命な消火活動

 山火事になった時、ハチドリが小さな口に水を含み、何度も往復することで火…

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