教養・歴史 書評

戦乱期に教団存続果たす宗教者の一代記=今谷明

 戦国時代の本願寺は、日本で最後の寺社勢力の雄として、全く特異な存在であった。トップは法主(ほっす)と称して鎌倉期の親鸞以来、血脈相承と呼ばれ、世俗的勢力である守護大名等と何ら変わらない。教団全体が武力組織をなし、かの織田信長ですら手を焼いた恐るべき存在であった。もっとも中世では南都北嶺と称し、延暦(えんりゃく)寺や興福寺も武力集団としての面はあったが、戦国争乱の過程で漸次淘汰(とうた)され、本願寺だけが“一向一揆”の名で大名以上の世俗権力として生き残ってきたのである。

 神田千里著『顕如』(ミネルヴァ書房、3500円)は、本願寺中興の英主蓮如の玄孫(やしゃご)にあたり、信長や豊臣秀吉と対決・講和をくり返した法主顕如の一代記。しかし彼が背負う大勢力の割には顕如伝は一般に等閑に付されてきた。その意味で、天下人が話題となる最近の風潮の中で、顕如伝が刊行された意義は大きい。

残り556文字(全文944文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

5月14日・21日合併号

ストップ!人口半減16 「自立持続可能」は全国65自治体 個性伸ばす「開成町」「忍野村」■荒木涼子/村田晋一郎19 地方の活路 カギは「多極集住」と高品質観光業 「よそ者・若者・ばか者」を生かせ■冨山和彦20 「人口減」のウソを斬る 地方消失の真因は若年女性の流出■天野馨南子25 労働力不足 203 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事