経済・企業鉄道の悲劇

安定銘柄のはずが……コロナで大きく値下がりした鉄道株 負け組は「西武」と「JR西日本」?

小田急は鉄道需要回復への期待から株価が堅調に推移
小田急は鉄道需要回復への期待から株価が堅調に推移

 近年、鉄道株は下振れリスクが少ない堅調な銘柄の代表として注目されるようになっていた。もともと交通インフラとして堅実な鉄道事業がベースにあり、経営の多角化を進めて百貨店やホテルを展開し収益構造を強化。さらに増大する訪日客(インバウンド)の観光需要を取り込んできた。

 しかし、これは2020年1月までの流れ。その後の新型コロナウイルス感染症の拡大により、これまでのビジネスモデルの前提条件がすべて崩れてしまった。(鉄道の悲劇)

インバウンド消滅

 まず海外からの渡航を制限したため、インバウンドの観光需要は消滅した。また、日本国内でも移動自粛・外出自粛となり、会社は在宅勤務を推奨、学校も休校となり、鉄道の定期収入が減った。そして、この動きに緊急事態宣言がダメを押した。

 さらに人が移動しなくなったことで、拠点駅の商業施設やホテルの客足も大きく落ち込み、自主休業に踏み切った会社も少なくない。本業の鉄道事業と多角化の柱となっている小売り・ホテル事業の両方が低迷していることで、株式市場での鉄道株の評価は芳しくない。

 そこで、主要鉄道会社の年初来の株価の推移を追った。図は昨年の大納会(19年12月30日)を基準にした株価の推移で、年初来騰落率を示している。

 2月に入って日本国内で新型コロナの感染者が増え始めると、先行きを不安視して、鉄道各社の株価も軒並み下落していった。ただし、この下落傾向は世界的な動きでもあり、3月15日に米連邦準備制度理事会(FRB)が緊急利下げを実施したことで底を打つ。

 その後、3月23日の小池百合子・東京都知事の「ロックダウン発言」や4月7日の緊急事態宣言の発令、さらには宣言の全国拡大・期間延長など移動の自粛を促す事象が起こるたびに鉄道株の株価は大きく揺さぶられた。

(注)HDはホールディングス (出所)ブルームバーグより編集部作成
(注)HDはホールディングス (出所)ブルームバーグより編集部作成

宣言解除が分岐点

 直近の動きでは、5月25日の緊急事態宣言の解除が分岐点となった。この日を境に株価の動きから鉄道株は四つのグループに大別される(表)。

 まず一つ目は、5月25日以降も株価は上昇し、年初来高値を更新した会社で、西日本鉄道と小田急電鉄の2社。二つ目が5月25日以降、年初来株価騰落率が0~約10%減の範囲で、ほぼ横ばいで推移している会社。相鉄ホールディングス(HD)、名古屋鉄道、東武鉄道などが含まれる。日経平均株価もこの水準にあてはまる。

 三つ目は5月25日以降下落傾向にあり、年初来騰落率が約10~30%減の会社。近鉄グループHDや阪急阪神HD、JR東日本、東急、JR東海など、このグループの会社数が最も多い。そして四つ目はさらに下落が目立ち、株価が年初来安値圏まで低迷している会社。西武HDとJR西日本の2社があてはまる。

 これら4グループの動向について、岡三証券の山崎慎一シニアセクターアナリストに解説してもらった。

(注)データはいずれも7月10日現在。予想PER(株価収益率)は12カ月先、※印は直近12カ月の実績PER、配当利回り欄の「―」は配当なしのためデータなし。▲はマイナス・HDはホールディングス (出所)ブルームバーグなどより編集部作成
(注)データはいずれも7月10日現在。予想PER(株価収益率)は12カ月先、※印は直近12カ月の実績PER、配当利回り欄の「―」は配当なしのためデータなし。▲はマイナス・HDはホールディングス (出所)ブルームバーグなどより編集部作成

 (1)年初来高値を更新

 年初来高値を更新した西鉄および小田急については、株式取引需給の関係によるものと思われる。ファンダメンタルズ(基礎的条件)はホテル事業を中心にインバウンド需要の回復が見込めない中、業績が元通りになるまでには相当時間がかかると思われる。

 なお、小田急は緊急事態宣言が解除された後は通勤客需要など主力である鉄道需要の回復への期待感から株価は堅調に推移したとみられる。

 (2)年初来騰落率が横ばい

 年初来騰落率が横ばい圏グループの特徴は、株価に関してもともとディフェンシブ性がある銘柄(景気動向に左右されにくい銘柄)が多い。例えば、京王は財務状況が他の民鉄と比べて健全であることからリスクが高まった際などは選好されやすい。今回もそのパターンにあてはまったとみている。

 なお、相鉄HDは5月下旬に年初来高値を更新しているが、これは緊急事態宣言が解除され、相鉄・JR直通線開業による収益拡大が期待されて株価が上昇したと思われる。

 (3)年初来騰落率が下落傾向

 年初来騰落率が下落傾向にあるグループの特徴は、おおむねコロナ禍によって外出自粛やインバウンド需要消滅の影響を大きく受ける銘柄となっている。例えば、JR東海はコロナ禍によって主力の東海道新幹線の需要は5月で90%減となるなど業績に多大な影響があった。また、東急も通勤需要や渋谷への外出需要の減少による業績への影響が株価に織り込まれたと思われる。

 (4)年初来安値圏

 西武HDは主力事業であるホテル・レジャー事業がインバウンド需要の長期低迷および出張、国内観光需要の戻りが鈍いことから業績の悪化が見込まれていると思われる。また、JR西日本の株価も軟調に推移しているが、JR本州3社のうち、相対的に収益基盤が脆弱(ぜいじゃく)であること、収益拡大のカタリスト(相場を動かす材料)である山陽新幹線の需要の緊急事態宣言解除後の回復が緩やかであることが要因とみられる。

 ただ、今後は「Go To Travelキャンペーン」など観光喚起策が期待される。こういった施策により、旅行需要が回復すれば、低迷している銘柄も株価が回復する可能性がある。

記録的大雨の被害

 停滞する梅雨前線の影響で、記録的な大雨の被害を受けている九州や本州各地の鉄道会社への懸念が強まる。河川の氾濫や崖崩れに伴う運行停止や復旧工事などの負担が重荷となり、株式市場ではその影響を見極めることになるだろう。

(編集部)

(本誌初出 市場の評価 年初来高値更新の西鉄 安値圏のJR西日本、西武HD=編集部 20200728)

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