教養・歴史 書評

下がらない返品率に最終手段? 出版社トップ3が流通新会社

「出版3社+丸紅」流通新会社の真意=永江朗

 大手出版社の講談社、集英社、小学館と総合商社の丸紅が、出版流通における新会社設立に向けて協議を開始した。5月14日、このニュースが流れるや、出版業界ではちょっとした騒ぎになった。業界トップの3社が、日本出版販売やトーハンなど既存の取次会社に見切りをつけて、自前の流通を始めようとしていると受け取る向きもあったからだ。

 大手出版社は取次の株主でもあり、取引条件も新興の中小出版社に比べると格段に恵まれている。その関係を切り捨てて自前の流通網構築となれば、取次は消滅し、日本の出版流通システムはひっくり返る。

 だが、プレスリリースを読むと、ニュアンスはかなり違う。確かに「出版流通における新会社」とは書かれているが、そこで主に取り組むのは「AI(人工知能)の活用による業務効率化事業」と「RFID活用事業」の二つ。RFIDとはいわゆるICタグで、そこに埋め込まれた情報を使って在庫や販売管理などにもつなげていこうということ。当世流行の言葉でいえば出版流通におけるDX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル技術による変革)促進ということである。

 背景には返品率の高止まりがある。出版科学研究所のデータによると、2019年の返品率(金額ベース)は書籍が35・7%、雑誌は42・9%。ただしこれはベストセラー、ロングセラー作品のように返品率が極めて低いものも含めた全体の数字。ピンポイントで見ると、書籍は5割を超えるものも多い。作ったものの半分も売れないのでは、製造業としてすでに破綻している。

 返品率が高いのは需要と供給がマッチしていないから。出版社には「書店が販売能力以上の本を注文してくる」「的確に売ってくれない」という不満があり、書店には「出版社は売れない本ばかり押しつけてきて、売れる本を送ってこない」という不満がある。また、委託販売(返品条件付き仕入れ)という慣行のため、過剰生産に陥りやすい。

 もちろん取次各社も返品率を下げるために努力を重ねてきた。だが、もはや取次だけでは劇的な改善は期待できない、というのが大手3社の本音ではないだろうか。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。

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