教養・歴史 書評

待ったなしの危機感? 急展開する出版流通改革=永江朗

永江朗の出版業界事情 流通改革で返品率改善に挑む

 大手出版社や取次を軸に、出版流通改革へ向けての動きが急だ。

 まずは以前、小欄でも書いたように、講談社、集英社、小学館が丸紅と出版流通の新会社設立に向けて協議を進めている。

 7月12日には大日本印刷(DNP)と取次大手のトーハンが出版流通改革に向けた提携を発表した。掲げるのは「生活者起点」。課題解決のために、製造・物流の改革、情報流通の改革、商流の改革、販促の改革を行うという。具体的には、これまでDNPが丸善ジュンク堂書店と共同で整備してきた書籍流通センターを、トーハンの桶川SCMセンター内に設置して、トーハンの倉庫・物流機能との連携を強化する。また、1冊からでも製造可能なDNPの書籍製造一貫工場との連携強化や、出版社倉庫との連携拡大などを挙げる。

 ツタヤで知られるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のグループ会社、カタリスト・データ・パートナーズは、8月5日、学研ホールディングス、小学館、日販グループホールディングス、富士山マガジンサービスから出資を受け、出版業界における新規事業を促進していくと発表した。Tカードによる個人属性データのほか、書店や取次が持つ流通・販促データ、出版社が持つコンテンツ系データを総合し、マーケティングに生かすべく出版社、取次、書店に提供していくというのである。

 流通に関する改革案や新規事業が矢継ぎ早に出てくる背景には、深刻な返品状況がある。書籍の返品率は33%(2020年)と、4割を超えた08年ごろよりは改善しているものの、高いことには変わりない。出版社、書店、取次の大きな足枷(かせ)になっている。雑誌返品率にいたっては4割を超えたままだ。その一方で、アマゾンは出版社との直取引を拡大し、効率的で利益率も高いビジネスを進めており、取次と書店は危機感をつのらせている。

 プロダクトアウト型からマーケットイン型へ、とはよく言われることではあるが、そもそも出版物にもそれが当てはまるのだろうか。二番煎じのような本が増えやしないか。「改革」が与える出版物の内容への影響について注視したい。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。

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