教養・歴史 政府・日銀共同声明10年

経済・市場・政治が正常化を許すか 末広徹

 2022年12月の日銀金融政策決定会合では、イールドカーブ・コントロール(YCC)政策の長期金利ターゲットのレンジが拡大された。突然の変更の背景には、岸田文雄政権が日銀に修正を迫ったとの見方がもっぱらであり、岸田政権が「脱アベノミクス」の姿勢を強めている可能性が高い。岸田首相が年頭記者会見で「トリクルダウンは起きなかった」と発言したことも、アベノミクス離れだろう。

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 岸田首相は政府・日銀の「共同声明(アコード)」について「見直すかどうかも含めて新しい日銀総裁と話をしなければならない」(1月3日のラジオ番組)と述べ、その可能性を示唆した。

 共同声明は13年1月22日にまとめられた。それまで物価目標は12年2月の「中長期的な物価安定の目途(消費者物価の前年比上昇率で2%以下のプラス領域にあると判断し、当面は1%を目途)」とされていたが、「物価安定の目標(消費者物価の前年比上昇率2%)」として明確化された。

 共同声明の評価は分かれている。だが、①人々の「期待」に影響を与えて物価を押し上げる効果はあった一方、②目標を早期に達成することができずに弊害が伴った、という評価が一般的だ。時間がたつにつれデメリットが目立ってきている。特に、22年以降の米国の利上げ局面で大幅な円安を招いてしまった点が強いデメリットとして意識された。柔軟性が外部環境の変化に対するクッションとして機能する状況が望ましいことを、日本経済は学んだ。

「脱アベノミクス」が進む場合でも、急変は困難だろう。岸田首相は「世の中の金利負担は上がってしまう」(1月3日のラジオ番組)と、拙速な金融引き締めとは距離を取った。

 現行の共同声明のうち「物価安定の目標の下、金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指す」という文章から「できるだけ早期に」という部分に変更が入る可能性が…

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週刊エコノミスト

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