教養・歴史 書評

4世紀末から500年余のビックリ中国仏教史 加藤徹

 中国史には「拓跋(たくばつ)国家」という用語がある。西暦386年の北魏の建国から、北朝の諸王朝、隋を経て、907年の唐の滅亡までの500年あまりの歴代王朝の総称だ。北魏も隋も唐も、支配層のルーツは北方系の異民族「鮮卑拓跋部」だった。

 歴代の拓跋国家は、力による政治を志向し、仏教など宗教も支配に活用した。北魏、隋、唐は古代日本の「律令国家」のモデルとなった。

 礪波護『文物に現れた北朝隋唐の仏教』(法蔵館文庫、1320円)は、拓跋国家の写経本や仏像など遺物を読み解き、政治と宗教のせめぎあいの歴史を浮き彫りにする。

 著者は1937年生まれの京都大学名誉教授で、宮崎市定の弟子である。

 遣隋使を派遣した聖徳太子は、通説では、仏教の理想郷「天寿国」を語り、隋の煬帝(ようだい)を仏教を保護する「海西の菩薩天子」とたたえた。著者は現存する文物を精査し、「天寿国」は「无寿国」(無寿国)の誤読で、聖徳太子があこがれた「海西の菩薩天子」は煬帝の父親・文帝を指すことを明らかにする。

 お経の真実も衝撃的だ。『観音経』が今の形になったのは、唐の則天武后の時代だった。当時、観音菩薩は阿弥陀仏の脇侍(きょうじ)(…

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