教養・歴史 鎌田浩毅の役に立つ地学

活火山とは“短い災害と長い恵みをもたらす”存在/149

イタリア・ナポリ市の背後にそびえる活火山のベスビオ山。ふもとにはワイン用のブドウ畑が広がる 筆者撮影
イタリア・ナポリ市の背後にそびえる活火山のベスビオ山。ふもとにはワイン用のブドウ畑が広がる 筆者撮影

 日本は世界屈指の火山国だが、世界の陸地の400分の1という狭い国土に、地球上の10分の1もの活火山がある。これから噴火する可能性の高い火山を「活火山」と呼び、その監督と監視を行う気象庁が「過去1万年前より後に噴火した火山」を調査した。噴火記録や地質調査データを詳しく検討した結果、日本列島に存在する約250の火山から111の活火山が選定された。

 活火山が定義された「1万年前」とは、途方もなく大昔と思われるかもしれないが、人類が農耕を始めたころである。火山が活動する周期は数十年から数千年と非常に長いので、1万年くらいは見ておかないと近い将来に噴火する火山を見落とす恐れがある。

 学校の教科書では20年ほど前まで、火山は「活火山」「休火山」「死火山」の三つに分けられ、噴火記録はあるもののしばらく活動していない火山を休火山、記録がない火山を死火山としていた。ところが、現在は休火山、死火山は使われていない。記録の有無で分類する意味がないと考えられるようになったためだ。

 かつては休火山とされていた富士山の例を見てみよう。最新の噴火は江戸時代の1707年、南東斜面の宝永火口から大爆発した。その後、300年以上も富士山は噴火していない。人間でいえば10世代にわたる長い時間を休んでいるのだが、地下ではマグマが次の出番を待っていることが分かっている。実は、100万年に及ぶ活火山の寿命からすれば、300年程度はまばたきする程度の短い「休止期」に過ぎない。

果樹栽培の適地にも

 こうしたことから、旧来の休火山のすべてと死火山の一部は、活火山と捉えた方がよい。火山学者と気象庁は、現在では「活火山」と「活火山以外の火山」という二分法で、噴火の可能性がある活火山にだけ国民の注意を向けてもらおうと啓発活動を行っている。

 火山はいったん噴火が起きれば災害を引き起こすが、厄介なだけではない。休止期の火山には数多くの魅力がある。火山の作る地形には美しいものが多く、日本の国立公園の9割は火山地域にある。火山は噴火中を除けば、むしろ人間に恵みや癒やしをもたらしてくれるものといえよう。

 火山は風光明媚(めいび)な風景…

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週刊エコノミスト

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