教養・歴史 アートな時間

現実と妄想が舞台上で混然一体 不条理全開の野田秀樹ワールド 濱田元子

「兎、波を走る」 篠山紀信撮影
「兎、波を走る」 篠山紀信撮影

舞台 NODA・MAP第26回公演「兎、波を走る」

 躍動する身体や奇想な言葉遊び、飛躍するイメージを駆使して、予測もつかない世界を見せてくれるのが、野田秀樹率いるNODA・MAP。エンターテインメント性に心を奪われているうちに、観客は底知れない歴史の闇や現実への問いを突き付けられる。

 2019年初演の、ロックバンド・クイーンのアルバムから着想した「Q:A Night At The Kabuki」では、シェークスピアの「ロミオとジュリエット」における両家の対立を源平合戦に重ねて、分断の時代を映し出した。21年の「フェイクスピア」は、恐山を舞台に、死者の口寄せをするイタコが登場。フェイクニュースがはびこる世の中に、「本当の言葉」の意味を問いかけてきた。

 昨年の「Q」のワールドツアーを経て、今作は2年ぶりの待望の新作となる。

 もちろん、一筋縄ではいかない。元女優ヤネフスマヤ(秋山菜津子)が借金の担保にしていた「遊びの園」が、とうとう競売にかけられようとしている。それと並行するように、迷子のアリス(多部未華子)と、娘を捜すアリスの母(松たか子)、時空を自在に行き来する脱兎(高橋一生)を巡る不条理なストーリーが展開していく。

 これはヤネフスマヤが作家とおぼしきものに書かせている物語なのか。重層的な入れ子構造の世界は、チェーホフやブレヒトといった作家の過去作をデータ学習し、作品を生成する人工知能(AI)の存在も想起させる。現実と妄想、仮想空間が舞台上で混然となるさまは、アナログな拡張現実(A…

残り727文字(全文1377文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

5月28日号

バイオ製薬最前線 肥満 がん 認知症第1部 創薬テーマ編肥満14 画期的な減量効果の治療 ノボ、リリー2強が世界席巻■中桐成美/中西拓司17 内臓脂肪減少薬 大正製薬が「アライ」発売 吸収抑えて25%を排せつ■中西拓司19 米国の現実 成人の「4割超」の深刻 国防にも影響するレベル■岩田太郎20 体 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事