教養・歴史 書評

皇帝2代で急成長して滅んだ帝国・隋 トップダウン式ゆえのあっけなさ 加藤徹

 日本人にとって隋は印象が薄い。遣隋使の小野妹子(おののいもこ)の国書を見た隋の煬帝(ようだい)が激怒した、くらいしか知らない。が、平田陽一郎『隋─「流星王朝」の光芒』(中公新書、1100円)を読むと、隋は漢や唐に匹敵する優秀な帝国だったことがわかる。

 中国は後漢末から400年も慢性的な分裂が続いた。589年、隋の文帝こと楊堅(ようけん)は、南朝の陳を滅ぼし、中国統一を達成した。隋軍は強かった。北の草原地帯の遊牧民である突厥(とっけつ)をも屈服させるほどだった。

 文帝は三つの顔をあわせもつ空前の天子となった。中国本土の皇帝。草原世界の可汗(遊牧民族の皇帝)。世界宗教としての仏教の庇護者「菩薩(ぼさつ)天子」。文帝は、従来の君主たちが試みた三つの称号を一身に兼ね備え、多元的なユーラシア大陸東部に君臨した。

 文帝は集団指導的な体制に立ち、明君の評価を得た。あとを継いだ息子の煬帝こと楊広は、大帝国となった隋をまとめるため、トップダウン式で君臨した。

 煬帝の構想は雄大だった。彼が建設した大運河は、中央アジアから長安・洛陽に続く陸のシルクロードと、東南アジアから揚州に至る海のシルクロードを握手させるもので、現代中国政府の「一帯一路」構想のさきがけだった。

 煬帝は動く天子だった。彼は官僚、兵士、女官をひきつれ、長安や洛陽、江南の江都、その他の地方を精力的に巡回した。皇帝が天下のどこにいても帝国を統治できる画期的なシステムを構築した。

 隋は名臣や名将にも恵まれた。繁栄は永遠に続くと思われた。

 が、高句麗(こうくり)遠征で隋が大敗したあと、滅亡までは早かった。トップダウン式は、国力が伸びている…

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