教養・歴史 書評

フィクションでよかった…… 二つの猟奇事件をつなぐ闇=楊逸

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 目のかゆみと鼻水、くしゃみ。ある日突然始まった花粉症の症状は、春を告げてくれた。いつもよりずいぶんと早いような気もするけれど、病院に向かいながら、萌(も)える街路樹を見て、なんとなく心が小躍りする。

『出版禁止 死刑囚の歌』(長江俊和著、新潮社、1600円)。いつか短歌を詠む死刑囚についての記事を読んだことを思い出して、この本を読んでみようと手に取った。この段階でとんでもない勘違いをしてしまい、第3章まで読み進んで、この本が「ノンフィクションではなかった」ことにようやく気づいたのだった。

 物語は1993年2月、千葉県柏市で「姉弟誘拐殺人事件」が起こったことに始まる。前日から行方不明だった6歳の須美奈ちゃんと4歳になる弟の亘くんの死体は、警察に自首した望月辰郎というホームレスの供述通り、林の中を掘り出して発見された。

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