教養・歴史 アートな時間

真摯にして純正のハーモニー ア・カペラ合唱団の魅力に浸る 梅津時比古

ザ・タロー・シンガーズを率いる里井宏次氏
ザ・タロー・シンガーズを率いる里井宏次氏

クラシック 里井宏次&ザ・タロー・シンガーズ 第18回東京定期演奏会~天上へ架けるエレガンス~

 関西文化圏は独特なものを生み出すことが多い。

 日本全国津々浦々まである合唱団においても(そのすべてを知るわけではないが)、実に独特な活動をしているのが、大阪を本拠にするザ・タロー・シンガーズである。

 1994年に指揮者・里井宏次(ひろし)の下に結成されたザ・タロー・シンガーズはア・カペラ(無伴奏)を基本とする18人の混声合唱団。なんといってもその魅力は、透きとおって豊かなハーモニーにあり、16世紀の宗教曲や近現代の宗教的な作品を中心に、精神性に満ちた響きを発揮する。一方で、武満徹からはポップな歌謡性を引き出すなど、まさに柔軟性に満ちた多彩な合唱団である。すでに8枚のCDも刊行して、幅広いファンをつかんでいる。

 それだけでも無類の存在だが、ザ・タロー・シンガーズが声楽界を驚かせたのは、シューベルトの三大歌曲集《水車屋の美しい娘》《冬の旅》《白鳥の歌》をア・カペラに編曲して演奏したことである。つまり、ピアノがまた重要な魅力であるシューベルトの歌曲を、ピアノ伴奏無しにしてしまったのである。信じられない暴挙に思えたが、実際にその響きを聴いた音楽ファンは、それがいかに真摯(しんし)な試みであるか、たちどころに気づき、次々に絶賛の声が上がった。ピアノ・パートに、人間の声を当てることによって、シューベルトの音楽の本質である孤独が、ピアノとはまた異なった新たな方法でえぐりとられたのである。

 ザ・タロー…

残り764文字(全文1414文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

5月28日号

バイオ製薬最前線 肥満 がん 認知症第1部 創薬テーマ編肥満14 画期的な減量効果の治療 ノボ、リリー2強が世界席巻■中桐成美/中西拓司17 内臓脂肪減少薬 大正製薬が「アライ」発売 吸収抑えて25%を排せつ■中西拓司19 米国の現実 成人の「4割超」の深刻 国防にも影響するレベル■岩田太郎20 体 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事