“海外工場で最も成功しそうな”TSMC熊本が本格稼働へ 自動車産業にも高まる関心 津田建二
有料記事
TSMCは日本での事業に手応えを感じたからこそ、すぐさま第2工場の建設も決めた。第3工場もあるとすれば、「先端パッケージ技術」を扱う工場になろう。
>>特集「日本経済総予測2025」はこちら
世界最大の台湾のファウンドリー(半導体受託製造)企業TSMCの熊本工場(熊本県菊陽町)がいよいよ本格稼働する。熊本工場を運営するJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)にはTSMCが86.5%を出資するほか、ソニーセミコンダクタソリューションズとデンソー、トヨタ自動車も少数株主として出資しており、生産する製品はこれらのメーカーにも出荷される。
TSMCから見ると、海外の工場としては現在建設中の米国のアリゾナ工場やドイツのドレスデン工場よりも、JASMが最も早く量産稼働に入る。アリゾナ工場は建設関係の人材確保など問題が多く、生産稼働が遅れている。米国が自国での半導体産業を支援するCHIPS法による補助金66億ドルは11月15日に下りたばかりで、日本が追い抜いた格好になる。ドレスデン工場は今年末が建設開始の予定だ。
『TSMC 世界を動かすヒミツ』の著者で、台湾の経済ジャーナリストの林宏文(リンホンウェン)氏は、「TSMCの海外工場の中でJASMが最も成功しそうだ」と予測する。その理由に「日本には自動車産業などのユーザーがいる上、日米台韓の中で日台が最も相互補完関係にある」と述べる。
加えて、日本は自社ブランドが強い企業が多く、台湾はファウンドリーやEMS(電子機器の受託製造)の企業が強い。また、日本は研究開発が強く、台湾は製品製造が強い。そして「米国は規格策定や設計に強いが製造は弱く、午後5時にすぐ帰り、残業しないが、日本は残業してくれる企業文化」とも語る。
「残業」多くても人気
ハードワークで知られるTSMCの台湾系の社員からは「日本人はあまり働かない」との声も漏れ聞こえるが、午後5時に全員が帰る日本企業こそあまり聞かない。日本のIT企業では残業は常態化している。残業の多い企業をブラック企業と決めつける傾向もあるが、ブラックといわれる企業では仕事に個人の裁量はほとんどない。「やる仕事」ではなく「やらされ仕事」が多く、残業が多すぎると不平も多いだろう。
「やる仕事」の多い米エヌビディアは、時価総額が一時、世界一ともなる一方で、残業も多いが社員に裁量が与えられる上に給料も高い。ゆえに誰もブラックとはいわないようだ。TSMCは少なくとも日本でいうブラックとは違うものの、残業は多い。しかし、国立台湾大学の優秀な学生の人気企業として挙がり、優秀な人材が集まっている。ブラックなのであれば、優秀な学生は喜んで行かないだろう。
熊本進出で期待以上に日本人が半導体工場に合致することを直感したTSMCは、すぐさま隣接地に第2工場の建設を決め、来年1~3月の間に工事を開始とする予定だ。その背景には、自動車産業という世界一強い半導体ユーザーがいることと、自動車産業は新車の生産台数こそ伸びは小さいが、自動車に使う半導体コンテンツ数量の成長率は…
残り1533文字(全文2833文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める